姿を消した上野モノレール、実は「都営交通の歴史の生き証人」だった

全国各地を走る「街のジェットコースター」

 さて、先述したとおり、上野モノレールのように桁からぶら下がるかたちの懸垂式モノレールは世界的にも採用例が少ないものの、日本では上野以外にも3つの都市で見ることができる。その3路線はどれも個性的なものばかりだ。  なかでも1988年に開通した「千葉都市モノレール」は、2路線合わせて約15.2キロメートルの路線長があり、世界最長の懸垂式モノレールとして知られている。  千葉市ではフィルムコミッションと協力するかたちでテレビドラマやアニメ作品の舞台誘致を積極的におこなっており、作品にモノレールが登場することも多く、また成田空港からも近いため、アニメを見て「近未来的な鉄道だ」として海外から乗りに来る観光客も少なくないという。  千葉都市モノレールで圧巻なのが、千葉駅前の百貨店「千葉そごう」の低層部分をモノレールが跨ぐ部分。そごう中層階から低い位置を走るモノレールを見上げることもでき、迫力満点だ。
「千葉そごう」の低層部上を走る千葉都市モノレール

百貨店「千葉そごう」の低層部上を走る千葉都市モノレール。低層部の屋上から走り抜ける車輌を見ることもできる。
建物と建物の間、しかも建物の上を走り抜ける光景が見られるのはここだけ。

 また、JR大船駅と観光地・江ノ島を僅か14分で結ぶ「湘南モノレール」は、近年は「湘南ジェットコースター」の異名を持つことでも知られる。  湘南モノレールの醍醐味は、最高時速75キロメートルで起伏の大きな鎌倉・藤沢市内を駆け抜けること。懸垂式モノレールでは珍しいトンネルを抜けると車窓には湘南の海と富士山が広がる。  ちなみに、同社はもともと三菱グループの企業であり、上野モノレールと同様に「三菱におけるモノレール事業の実験的路線」という意味合いも持っていたものの、2015年からは三菱グループを離れ、産業再生機構をルーツに持つ交通機関の再生事業を手掛ける企業「みちのりホールディングス」の傘下となっている。近年まで1971年の全線開通時からあまり変化が無い古い設備が特徴であり、IC乗車券すら使えなかったが、みちのり傘下となって以降は設備のリニューアルが進んでおり、2019年現在は各種IC乗車券が使えるようになった。  終着駅・湘南江ノ島駅のホームは地上5階。この駅舎も2018年12月にリニューアルされたばかりで、5階部分にはテラスが設けられており、晴れた日には富士山まで一望できる。ぜひ天気のいい日に訪れて欲しい路線だ。
湘南モノレール

ジェットコースターに例えられることもある湘南モノレール。
写真の湘南江の島駅のホームは地上5階にあり、景色も抜群だ。

 最後に紹介するのは、広島市のニュータウンにある懸垂式モノレールとロープウェイを組み合わせた新しい交通機関「スカイレール」だ。  こちらは1998年に開通したもので、JRの駅とニュータウンとを結ぶアクセス交通という位置づけであるが、もちろん一般の人も乗車可能。ニュータウンは高台にあり、路線はかなり傾斜があるため、ダイナミックな車窓を楽しむことができる。
スカイレール

個性バツグン!山の上にあるニュータウンの足・スカイレール。(撮影:停留所めぐり

 上野からは姿を消したものの、全国各地で見ることができる個性的な懸垂式モノレールたち。旅行に出かけた際には「車下」に広がるダイナミックな景色を楽しみつつ、その元祖である「上野モノレール」にも思いを馳せてみてはどうだろうか。 <取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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