落とし穴だらけの消費増税に伴うポイント還元と、そこから見える「切り捨て」政策

優しさ、公平さ、が溶けていく令和日本。

 しかし、このポイント還元システムの本質的な欠陥はもっと根本のところにある。税というものは、公平、中立、簡素であるべきだからだ。  還元制度でスマホ決済だけが還元の対象となると、スマホを持ち、対象のスマホ決済事業者の支払い方法を持っているものだけが減税の対象になる。  クレジットカードが還元の対象の店であっても、民間の会社の審査を通して初めて持つことができるクレジットカードを持つものだけが減税の対象になることができる。  生活にスマホを持つ必要のない人、持ってない人やクレジットカードを持つことができない人は幾ら制度のことを理解し還元を得ようと思っても減税の対象になれないのである。これでは、税の原則の一番大切な公平さに著しく欠ける制度と言わざるをえない。  子どもがコンビニでお菓子を買う場合は減税の対象とならないし、多くの消費者が毎日の買い物をする安売りスーパーの大部分も対象にならない。  制度が複雑で理解しにくいもので多くの国民に正確に制度が浸透したとは到底思えない。  先日ある知人から、ポイント還元の恩恵を受けたいので、スマホ決済をしたいのだが、どうすればいいのかわからないと相談を受けた。アプリをダウンロードすればいいんですよと伝えるのだが、そういうことをしたことのない人も少なくないのだ。  アプリをダウンロードした後に、支払いのための銀行口座やクレジットカードと紐付けすればいいんですというと黙ってしまった。  スマホとアプリに親しんでいないシニア世代にとってはそれだけ壁が高いはずだ。  今回のポイント還元策は、国民誰もが公平に恩恵に預かれるものとは到底言えない。

スマホもパソコンも持たない人は切り捨てられるのか?

 さらに私は、来年の6月までの消費税の還元政策というお金の問題だけで止まらないことを危惧している。  この秋の台風15号、19号、その後の水害をもたらした大雨などの自然災害でのテレビ報道を見ていて心配になった。それは、皆さまのNHKの災害報道での避難や避難先の情報について「詳しくは各自治体のホームページを参照してくださいとか、詳しい情報は画面のQRコードを読み取ってくださいと言わんばかりに、テレビ画面の左下に大きなQRコードを延々と映し出していたことだ。まあ、その肝心のホームページもアクセスが殺到し見ることができなかったりしたけれど、スマホもパソコンも持たない人はいったいどうすればいいのだろうか? そして、持っている人でも、その扱い方を知らない人は少なくないはずだ。  スマートフォンの普及率は50歳未満であれば8割を超えるが、70歳以上は3割程度である。ここからこぼれる人はどうしたらいいのだろう? スマホもパソコンも持たない人、その扱い方を熟知してない人には、この秋の災害報道では、その危機はわかっても、ではどう命を守ればいいのかを知る各地方の避難情報にたどり着くことが難しかった人が多数いたはずなのだ。  台風19号の犠牲者の7割以上は60歳以上のシニアである。迫り来る危機の中でどうしたらいいのかわからない、情報も伝達されない、ホームページって何? と思いながら亡くなった人もいるのではないかと思うのだ。  スマホもパソコンも生活を便利にしてくれるしデジタルデバイスがこれからの世の中で無くてはならないものだということも良くわかる。しかし、それに付いていけない人をどう救い上げていくかを考えてほしい。  私は、令和の日本から、公平さ、優しさが失われていることを感じてしまうのだ。 <文/佐藤治彦>
さとうはるひこ●経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『年収300万~700万円 普通の人がケチらず貯まるお金の話』(扶桑社新書)、『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』 (扶桑社文庫・扶桑社新書)、『しあわせとお金の距離について』(晶文社)『お金が増える不思議なお金の話ーケチらないで暮らすと、なぜか豊かになる20のこと』(方丈社)『日経新聞を「早読み」する技術』 (PHPビジネス新書)『使い捨て店長』(洋泉社新書)
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