中国による「台湾」編集攻撃騒動にみる、「Wikipediaの情報バイアス」

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Gerd Altmann via Pixabay

ウィキペディアで中国が編集攻撃を強化

 10月の上旬に「中国と台湾が Wikipedia の編集で衝突」というニュースが飛び込んできた。9月の初旬の頃、Google や Siri に「台湾とは?」と尋ねると、「中華人民共和国の省」と答えていたというものだ。  理由は Wikipedia にある。そこにある情報が、Google や Siri の回答のソースになっているからだ。つまり、Wikipedia の情報を書き換えれば、世の中の情報を大きく変えることができる。そしてその目的で、リソースを割いている国もある。国内の情報をコントロールして、世界の情報もコントロールしようと考えている国。中華人民共和国だ。  中国は、世界の「誤解」を解くために、国外の情報を書き換えている。台湾は、政治的に中国の攻撃対象になっている。誰でも書き換えることが可能な Wikipedia は、そうした情報戦争の舞台になった。Wikipedia の台湾に関する記事は、1日のあいだに何度も書き換えと修正が繰り返された(参照:Wikipedia)。

編集合戦の舞台としてのウィキペディア

 こうした Wikipedia で書き換えが繰り返される状態を、編集合戦と呼ぶ。Wikipedia には「編集回数の多いページの一覧」がある。各月で、どの記事の書き換えが多かったかをランキング表示している。  このページには、記事ではない執筆者向けのページも含まれている。そのため、それらを除外して、2019年9月の日本語記事ランキングを抜き出してみよう。【】内の数字は、その月の編集回数と、総編集回数だ。 1. ゲゲゲの鬼太郎の登場キャラクター【423/2275】 2. 亜洲大学【361/451】台湾の私立大学 3. 令和元年台風第15号【361/361】 4. 志麻【296/380)日本の男性歌い手、声優、ゲーム実況 5. 蛟龍 (潜水艦)【275/614】五人乗りの特殊潜航艇 6. あなたの番です【274/1806】テレビドラマ 7. 大江健三郎【273/1350】 8. 2019年のテレビ (日本)【228/1857】 9. 仮面ライダーゼロワン【214/319】 10. なつぞら【196/1174】NHK連続テレビ小説  基本的に、現在進行形の娯楽の記事が、多く更新される傾向がある。2位に入っている「亜洲大学」だが、冒頭の中国の影響かと思い変更履歴を確かめてみた。しかし、数日間にわたり一人の人が延々と編集していただけだったので、編集合戦が起きているわけではなかった。  この「編集回数の多いページの一覧」にある記事を上から見ていき、編集合戦になっているものを探してみた。サイエントロジーの記事が該当していた。『「サイエントロジー」の変更履歴 – Wikipedia』を見ると、議論の様子が見てとれる。 > 2019年10月20日 (日) 14:24‎ 「サイエントロジー」を保護しました: 編集合戦 (2019年11月3日 (日) 14:24(UTC)で自動的に解除 > > 2019年10月20日 (日) 13:44‎ 差し戻し。教団にとって不都合な事実だろうが意図的に隠さないこと。 > > 2019年10月20日 (日) 01:49‎ 嫌がらせを意図した虚偽と歪曲。また主張の欄に不適切な内容の削除  先の中国の例でも分かるように、政治や宗教関係の記事は、編集合戦が生じやすい(参照:IRORIO)。また「地球温暖化」「酸性雨」「進化論」のように主義主張がからむ記事も同様だ(参照:ギズモード・ジャパン)。  編集合戦ではないが、長い議論がおこなわれたことでメディアで話題になった項目もある。それは「Human」(人間)だ。人間を表す写真を、どの民族にするかで、延々と5年にわたって議論が続いた。そして、タイの男女の写真になった(参照:WIRED.jp)。
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ウィキペディア自体の編集バイアス
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