中国による「台湾」編集攻撃騒動にみる、「Wikipediaの情報バイアス」

ウィキペディア自体の編集バイアス

 Wikipedia は、誰でも参加できる開かれた場だ。しかし、その編集には大きなバイアスがあることも指摘されている。そのひとつはジェンダーバイアスだ。Wikipedia 自身に『ウィキペディアにおけるジェンダーバイアス』というページがあるほどだ。  このページによると、Wikipedia の編集者の84%から91%が男性だそうだ。当然、それだけ男性が多いと内容に偏りが生じる(参照:NEUT Magazine)。  去年の記事だが、『ウィキペディアが、実は「男の世界」だって知っていましたか』という記事では、女性にとってはとても関心が高いファッションの項目が削除依頼になってしまうという話があった。また、女性科学者についての記事が、削除依頼にかけられるという問題も指摘されている。  そうした問題への取り組みもなされている。Wikipedia に載っていない重要な科学者を探し出すツールの開発や利用だ(参照:WIRED.jp)。Wikipedia では、そうしたツールをもとに、まだ項目のない科学者――当然女性科学者も多い――を追加している。  編集合戦だけでなく、どの項目が作られるかというところにも、文化や立場の違いによる軋轢が生じている。

ボットも暗躍する情報戦争

 さて、編集合戦に話を戻そう。Wikipedia の編集合戦は、人間だけがおこなっているわけではない。ボット(インターネット上で自動で処理をおこなうロボットプログラム)も参加している。  ある内容を書き込むボットがいるかと思えば、その書き込みを元に戻すボットもいる。中には、それらが互いに書き込みとアンドゥーを繰り返しているケースもある。情報戦争の分野では、すでにロボットが戦場で戦いを繰り広げているのだ(参照:TechCrunch JapanMIT Tech Review)。  インターネット上の情報は、絶えず様々な立場の人間や、その人間が設置したロボットによって書き換えられている。検索して出てきた情報をそのまま鵜呑みにすると、間違った方向に誘導される危険がある。また、自分が過去に得た知識も、間違っている可能性があると思っていた方がよいだろう。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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