「ほとんど喋らないのに売る」営業マンが口を開くとき、何をどう切り出すのか?

「いらないなら買わなくてもいい」スタンス

 最後にT・Yさんの営業にかける想いを語って下さいました。 「お客さんが望まないものを買ってほしくないのです。苦情や次回の商談で警戒されるからです。お客さんの表情から感情を推察し、心に寄り添って欲しいものを気持ちよく買ってもらう。それが100円であろうが100万円であろうが、気持ちは変わりません。自分で決めて買って欲しいのです。僕からは決して『買ってほしい』というアプローチはしません。逆に『いらないなら買わなくてもいい』スタンスを取り続けます。そういう意味で僕は営業嫌いな営業マンなのです」

相手の心が向かう方向に意識を向け、同じ想いで、Wantを探す

 実は弊社の研修で営業担当向けの研修を行うことがあります。顧客となる企業さんにはある傾向があります。  それはホスピタリティー意識が極限まで高い、あるいは高額商品を扱う企業さんです。「観察の小さな差が大きな差をもたらす」と考え、「もはや普通の営業スキル研修は完璧」「名人営業マンの暗黙知を科学的に解き明かした研修」を望まれる企業さんに、微表情を始めとする非言語観察研修は人気です。  T・Yさんの言葉にありますが、微表情を用いた営業手法は心理誘導ではありません。  いたずらに、こちらの思うままに、「相手を動かす」のではありません。相手の心が向かう方向に意識を向け、同じ想いで、Wantを探す。こうした営為が、目先だけの取引ではなく、信頼関係のある長期的な取引に通じるのだと思います。 <文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
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