記者会見で頭を下げる関西電力の八木誠会長(左から2人目)、岩根茂樹社長(同3人目)ら(時事通信)
関西電力の八木誠会長や岩根茂樹社長を筆頭とする幹部らが、福井県高浜町の元助役(個人)から、多額の金品を受け取っていたことが明らかになった。関電によれば、その額はおよそ3億2000万円にものぼるという。
この問題はすでに政界にも波及しており、自民党の世耕弘成参院幹事長は経済産業大臣のころ、元助役と関係の深い会社から計600万円の献金を受け取っていたことがわかっている(世耕氏の事務所は現段階で返金を考えていないと説明)。
『
月刊日本 11月号』では、日本の政界や財界、官僚、マスコミ業界は原発マネーで汚れきっている実態について強く憂慮し、「汚れた原発 腐臭を放つ日本」と題した大特集を打ち、問題の徹底追及を呼びかけている。
今回は同特集の中から、元東京地検特捜部検事であり弁護士の郷原信郎氏へのインタビューを紹介したい。
―― 関西電力幹部が福井県高浜町の森山栄治元助役から金品を受領していた問題で、関電側は「不適切ではあるが違法ではない」と主張しています。関電の対応をどのように見ていますか。
郷原信郎氏(以下、郷原):確かに現時点では今回の問題が法令や社内規則に違反するかどうか明確ではありません。しかし、
コンプライアンスの観点からすれば、関電の姿勢は全く容認できるものではありません。
ここで言うコンプライアンスとは、「法令遵守」ではなく、「
社会の要請に応えること」です。原発安全神話が信じられていた時代には、エネルギーの確保という社会の要請に応えるため、電力会社が地元の有力者に金をばらまき、原発の建設や稼働の了解を得ることは事実上容認されていました。しかし、福島原発事故によって原発安全神話が崩壊した今日では、原発立地地域に不透明な金をばらまくような真似は認められません。ましてや
その資金の一部を電力会社幹部に還流させるなど、最低・最悪の行為です。
そもそも関電は昨年の段階で、幹部たちが森山氏から金品を受領していた事実を把握していました。ところが関電はそのことを1年にもわたって公表せず、隠蔽してきました。
刑事事件に発展する可能性のある重大な事実を隠蔽したことは、コンプライアンス上許されざることです。
私はかつて電力会社のコンプライアンスに関わったことがあり、関電本社の役員会でもコンプライアンスについて講演したことがあります。そこには八木誠会長(当時は取締役副社長)や岩根茂樹社長(当時は常務取締役)も出席しており、みな私の話を真剣に聞いてくれました。ところが、彼らはいま「不適切だが違法ではない」という言い訳ばかり繰り返しています。あのとき私の講演をどのように聞いていたのか。残念なことです。このような人たちが経営トップに居座っている電力会社を信頼できるのかという話です。
―― 関電幹部たちはこれほどの問題を起こしたにもかかわらず、辞任を否定しています(*本インタビュー後に八木会長や岩根社長らは辞任を表明した)。
郷原:それは自分たちの行為が司法判断や第三者委員会の判断によって犯罪や法令違反とされないという見通しを持っているからだと思います。実際、現在のところ大阪地検特捜部が捜査に乗り出している様子は見られません。
その背景には、
関電を中心とする関西財界と関西検察OBの「深い関係」が見え隠れします。たとえば、
関電の社外監査役を長年務めていたのは、
「関西検察のドン」と称された土肥孝治元検事総長です。その後任として社外監査役に就いたのも、
元大阪高検検事長の佐々木茂夫弁護士です。佐々木氏は今年で75歳であり、後期高齢者が新任の社外監査役に就任するのは異例のことです。
また、関電の調査委員会で委員長を務めていた
小林敬弁護士も、元大阪地検検事正です。岩根社長の説明によると、小林氏はかねてから関電のコンプライアンス委員会の委員を務めているとのことです。
もっとも、小林氏は単なる関西検察OBではありません。彼が大阪地検検事正だったのは、2010年に
大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件が起こったときです。このとき小林氏は当時の大坪弘道特捜部長たちから「過失によるデータ改変」を報告されたにもかかわらず、何の措置もとらなかったことの責任を問われ、減給の懲戒処分を受けて辞任しました。
その後、小林氏は弁護士登録し、阪急阪神ホテルズの食材偽装改ざん問題の第三者委員会の委員長や積水ハウスの社外監査役、山陽特殊製鋼の社外取締役などを務めています。証拠改ざん事件で引責辞任し、社会的評価を失ったにもかかわらず、小林氏がこれほど多くのポストに就任できたのは、関西検察OBによる後ろ盾があったからと考えるのが自然でしょう。
こうした事情を踏まえれば、
大阪検察の幹部たちが自らの退官後の処遇を考え、関電への捜査を躊躇しているとしても不思議ではありません。巨額の金の動きを伴う重大事案が表面化しているのに全く動こうとしない検察を見れば、そのような疑いを持たれても仕方ないでしょう。