人生100年時代、老後に不足する2000万円をどうする?
「高齢化社会における資産形成・管理」と題する金融庁・金融審議会の報告書が、
「人生100年時代を過ごすためには年金以外に2000万円が不足する」と指摘したことが大きな話題になったことはまだ記憶に新しい。
たとえば年金生活の高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)の場合、年金などの収入約21万円、支出約26.3万円で、月約5万円足りない(30年で約2000万円不足)。野党はこの部分を取り出して「政府は無責任」だと批判した。
だが冷静に考えると、これが現実だと言わざるを得まい。現状の国の財政事情から将来を展望すると、継続的な人口減少を背景に今後低成長時代が数十年続くことが見込まれる。財政不足は深刻化の一途をたどり、「公的年金の水準は中長期的に実質的に低下が見込まれる」との報告書の指摘は正しい。
今、働き盛りの20歳~30歳代の若年層は将来自分が迎える定年後の生活などまだ考えたこともないだろうが、「備えあれば患いなし」である。今のうちにしっかり将来への準備をしておくことを勧めたい。
日本は社会主義国ではないので、老後の生活を政府が100%保障する仕組みにはなっていない。ただ平均的日本人が老後を楽しく健やかに過ごせるように、生活費のかなりの部分を賄うために年金制度が設けられているわけである。
年金支給が多ければ多いほど望ましいが、財政事情がそれを許さない。年金で不足する部分は自助努力で賄わなければならないのは自由主義・市場経済システムの下で生活している私たちにとっては受け入れざるをえない現実である。
約25年続くゼロ金利が、家計の金融資産を死蔵させている
将来に備えてお金を増やす方法は大きく2つある。一つは働いて得たお金の一部を貯蓄する方法だ。貯蓄には金利がつく。金利が高いほど金融資産は増える。もう一つの方法は貯めたお金を運用して増やす方法だ。国債や社債、投資信託、株式などに投資して増やす方法だ。二つの方法にはそれぞれ長所と短所がある。貯蓄の場合には適正な金利が得られなくてはならない。一方株式運用などの場合はリスクを伴う。どちらを選択するかは時代によって異なる。
今の日本には適正な金利で貯蓄を増やす仕組みが失われている。バブルが弾けた後、90年代中頃から実質金利ゼロ時代が今日まで25年近く続いている。家計部門の金融資産は現在約1800兆円ある。このうち約半分の900兆円が現預金として貯蓄されている。
仮に金利が年1%なら9兆円の利子所得が発生する。2%の利子なら18兆円になる。利子所得の一部が消費に回れば、消費需要が増え、経済成長にもプラスに働く。しかし現実には実質金利ゼロで家計部門の貯蓄は死蔵されたままだ。しかもこの状態は今後も続きそうなのである。
一方、株式などの金融資産運用については、ネット取引が可能になったことで、ハイリスクの部分を大幅に抑え込むことが可能になった。
政府、日銀が今後もゼロ金利政策、さらにマイナス金利政策を推進するなら、国民は自分のお金を貯蓄から運用に切り替え、市場経済メカニズムを活用し、自助努力でお金を増やす選択を目指すほかあるまい。