「堤防は決壊してはいけないが、非常に延長が長く……」
――堤防強化を最優先にせずに、ダムを最優先してきた治水政策が今回の災害を招いたという指摘もありますが、その点はいかがですか。
大塚委員長:その点については、私にはちょっとまだ分かりません。この場所についてはこういうことが起きてしまいましたので、今後の対策をもっと考える必要があると思います。しかし、そういった施策全般についてここだけを見て言うことはできないと思います。
――堤防は「決壊してはいけないもの」ではないですか。それが起きたことへの専門家としての意見はどうなのでしょうか。
大塚委員長:堤防は決壊してはいけないと思っています。誰もがそう思いますが、堤防は非常に延長が長い。全部工事をしていくと、それは莫大な予算と時間がかかってしまう。だから国としてはずっと努力はしていますが、非常に長い時間がかかる中で、どうしても整備率が上がらないという現実もあると思います。
――特に、ここは緊急にやるべきところだったのではないでしょうか。
大塚委員長:そこはいろいろなご判断があるのだと思います。
二階建ての家屋の一階部分の壁が抜け去り、濁流の激しさを物語る堤防決壊現場
『ダムが国を滅ぼす』などの著者がある今本博健・京大名誉教授(河川工学・防災工学)は大塚委員長の発言について、こう指摘する。
「鋼矢板補強についての質問に対し、委員長は『周辺地盤と馴染んでいないと効果を発揮しない』と答えていますが、国交省の言い訳をなぞっただけです。地震などによって、鋼矢板と既設堤防との間に空隙ができることを指しているようですが、たとえ空隙ができても鋼矢板は破堤を防ぎます。
委員長の発言は、河川工学者ではなく地盤工学者のような発言です。今回の調査委員会も、現地を見るだけで自らは調査をせず、国交省の調査をもとに国交省の見解を結論とすると思われます」
千曲川の破堤個所を訪れたことがある今本氏は、堤防決壊の原因についても次のように推定した。
「下流の河道が狭まっていますので、せき上げにより水位が上昇して越水し、破堤に至った可能性が大です。堤防補強が完了していたようですが、補強のやり方がまずかったのでしょう。堤防の高さについての検討にも問題があったのではないでしょうか」
千曲川の堤防決壊の原因が浮き彫りになっていく。それは「下流の河道(川幅)が狭まる危険個所であったのに、堤防強化が不十分で決壊に至った」というものだ。
今本氏は現役時代の災害調査で、被害者から「原因究明もいいが、二度と同じことが起こらないようにする研究もすべきだ」と言われたことがあるという。「それ以後はこのことを心がけています」(今本氏)。
堤防決壊で大きな被害が出た西日本豪雨の教訓を活かさず、安倍政権が再発防止(危険地区の緊急堤防強化)を怠ってきたことは間違いない。今回の台風19号襲来で、堤防決壊続出を招いた主原因といえるのだ。「ダム最優先・堤防強化二の次」の河川政策が今後、どう問いただされるのかが注目される。
<文・写真/横田一>