元ドライバーが京急踏切トラック事故現場を再訪して検証する、4つの「たられば」

3:警察を呼んでいれば

 トラックドライバーは世間から「運転のプロ」とみなされる。無論、ドライバー本人たちにも、プロ意識が強い人がほとんどだ。  が、トラックドライバーも人間である以上、時には大なり小なりミスはする。  今回のドライバーも大きなミスを犯した。が、それは世間の言う「小道に入ったこと」でも、「踏切を右折したこと」でもない。「無理だとすぐに判断できなかったこと」だ。  この件でも現役ドライバーに、どうすれば今回の事故は防げたか意見を聞いたところ、「手前の道路で早めにUターンするべきだった」、「小道をバックして戻るべきだった」といった声のほか、「警察を呼ぶべきだった」という回答が多数出た。  トラックは車体が大きいため、立ち往生すると周囲に多大な迷惑を掛ける。その時のプレッシャーは、普通車の比ではない。  が、そこで無理をして周囲のクルマにぶつけたり、歩行者と接触したりすれば、どんな言い訳もきかなくなる。  それゆえ、立ち往生した時は潔くプライドを捨てて自力での脱出を諦め、警察に誘導要請するべきであり、それができる人こそが、「真のプロドライバー」だというのが、多くの現役ドライバーの意見だった。  ちなみに、警察を呼ぶべきなのは、トラックドライバーや踏切での立ち往生に限ったことではなく、普通車がどんな道を通った際でも同じだ。  交通課の警察は、「交通整備」も職務の一環であるため、誘導要請のために110番しても叱られたり、違反切符を切られたりすることはない。

4:トラックを降りていれば

 今回の事故で何よりも残念なのは、彼が最後までトラックを降りなかったことだ。  どちらにせよ電車との衝突が避けられなかったのならば、彼にはせめて衝突前に脱出していてほしかった。  警報機が鳴り始めて電車が衝突するまでは約30秒。彼はこの時間を、逃げるためではなく、現状を挽回するためのものとして捉えたのだ。  トラックドライバーは、世間からその印象を「強引」「ヤンチャ」「自分勝手」などとされがちだが、実際は、非常に繊細で責任感の強い人が多い。  ましてや彼は、67歳で入社1年足らず。トラックに傷をつけてはいけない、会社や社会に迷惑を掛けてはいけない、という心理が強く働いたに違いない。  幹線道路から突如現れる小道、大型トラックの大容量化、ドライバーの高年齢化。  踏切に付いた黒いタイヤ痕から、車体が引きずられ止まったベニヤ板の仮壁までの約20m。この1か月、踏切の音を背に何度も歩いて見えたのは、やはり日本社会の縮図だった。  少しの工夫で避けられた彼の死。今回の事故が、少しでも今後の物流や道路環境改善の教訓として活かされることを切に願わずにはいられない。 <取材・文・撮影/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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