米国抜きのTPP協定(CPTPP)は2018年12月に発効済であるが、日米貿易協定の結果は、TPP参加国にも影響を及ぼす。
例えば、日米貿易協定で日本は米国産牛肉にセーフガード(緊急輸入制限措置)を設定した上で関税を削減することとした。しかしTPP参加国と米国の輸入量を合わせると、TPPで設定したセーフガードの発動基準数を超える可能性がある(図3)。
本来であれば、米国のTPP離脱後、他国と見直し協議をして発動基準数を米国抜きの前提に下げておく必要があったのだが、それがなされなかったため生じている問題だ。米国からの輸入量も想定した基準量になっているため、現在のTPP参加国からの輸入には事実上、セーフガードが効かない状態で、そのことは政府も認めている。
この問題について、日本政府の説明に様々な疑念があげられている。与党・公明党「TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部」の矢倉克夫事務局長は2019年10月3日の会合で、「
(TPP参加国との修正協議が)整わなかったら(セーフガードが)緩くなる」と指摘*。また10月に入り各地で開催されている農業者等への説明会でも、「TPP参加国が見直しに応じるのか」と実現性を疑問視する意見が出ている(10月2日、札幌市)。
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牛肉SG再協議 日米協定発効後に 公明経済対策本部で政府 国内対策充実を|日本農業新聞>
畜産農家からすれば、早急にTPP参加国との見直し協議をしてほしいところだが
、政府は、「日米貿易協定が発効した後、輸入状況などが見えてきた段階で各国と協議をする」としている。具体的には、4年後の2023年度から米国を含む輸入量で運用できるよう協議するというのだ。それでは畜産農家の不安は払しょくできず、またTPP参加国がその時点で再協議に応じるのかどうかも何の保証もない。
日本以外のTPP参加国にとって「愉快ではない」日米貿易協定
日米貿易協定が大筋合意に達した直後の8月27日、豪州のブリジット・マッケンジー農相は、「
TPPの再交渉は考えていない」とセーフガードの発動条件を厳しくする案に否定的な考えを示している*。日本は消費する牛肉の6割を輸入に頼り、その半分は豪州産だ。TPP発効によって豪州産牛肉の関税はすでに38.5%から26.6%に下がっており、今後も段階的に下がっていく。セーフガード措置を含むTPPで得たメリットを豪州が簡単に手放すはずはない。
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豪農相「TPP再交渉せず」 セーフガード議論けん制|日経新聞2019年8月27日>
また米国の離脱後、11カ国で交渉してきた
TPP協定だが、まだ国内批准を終えていない国もあり、正式に参加しているのは
日本を含めた7カ国(日本、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア、ベトナム)である。TPPは、マレーシアなど新興国にとって世界最大規模の米国市場へのアクセスが最大の魅力であった。米国の離脱直後はその恩恵が激減したとして各国の発効への速度もばらつきがみられるようになった。こうした国に発効を促すため、「米国がTPP復帰するまでは米国との二国間交渉を控える」という各国政府間での示し合わせさえあったと言われている。
今回の日米貿易協定によって、米国のTPP復帰はさらに非現実的なものとなった。建前であれそれを主張してきた日本政府自らが米国とFTAを結んだことは、他のTPP参加国にとっては決して愉快なものではないだろう。再協議も含め、TPP参加国との関係や未批准国の今後の動きなども注視すべき点である。