現在、中心となっているAI監視システムの分野は3つ、スマートシティ/セーフシティ(56カ国)、顔認識(64カ国)、スマートポリス(53カ国)である。
AI監視システムを支える関連分野として、
自動出入国管理システム、クラウドコンピューティング、IoT(モノのインターネット)などがある。ここにも多くの問題が潜んでいる。たとえばクラウドコンピューティングはAI監視システムに限らない近年のITインフラと言っても過言ではないが、そこには情報漏洩のリスクがある。イスラエルのNSOグループはクラウドから情報を盗み出せると主張しているし、仮にセキュリティが万全であっても政府から情報提供を強制される事態もありうる。
IoTはより深刻な問題を孕んでいる。身の回りの全てがIoTになれば人間の活動の全てを監視可能となる。Teslaは、周囲の状況を監視、記録、分析できる監視システムを搭載した車を発表した。車上荒らしや車の盗難を防ぐための機能であるが、そのまま移動する監視ステーションにする監視システムも可能になる。
旧ソ連および近隣国に導入されている安価なロシアモデル
中国に比べるとロシアの監視システムは目立たないが、デジタル権威主義の拡大に一役買っているのは間違いない。ブルッキングス研究所が『Exporting digital authoritarianism The Russian and Chinese models』で取り上げられている内容を簡単に紹介しておく。
ロシアの監視システムは最先端を走る中国に比べると安価であり、中国モデルを導入する予算のない政府でも導入できる。また、旧ソビエト連邦および近隣国での採用もある。
ロシア国内の監視用に作られたシステム
SORM(現在はSORM-3)とリアルタイムで情報を送信、認識する「
Safe City」が有名である。「Safe City」はロシアのワールドカップの際、およそ3千億円をかけて導入された。
ロシアはAIの分野で中国に遅れており、多額の予算をつぎ込んで追いつき、追い越そうとしている。毎年約13億円の予算をつぎ込んでいる。
ハイブリッド戦の一環として存在感を強める監視システム
ハイブリッド戦は、軍事に限らず経済、外交、宗教、サイバーなど全てを使った戦いであり、近年の戦争はこの形態に移行しており、中国とロシアはその最先端を走っている。そのハイブリッド戦の中でひときわ目立っているのが監視システムを通じたデジタル権威主義の拡大であり、中国の場合一帯一路と結びつき、世界に広がっている。
現在、世界をリードしているのは中国であるが、ロシア、アメリカ、日本および他の国々も同様に監視システムに注力している。その一方で導入している国々もひとつの国の製品に偏らないように留意するなどの対策を講じている。
しばらくは混沌とした状況が続くことは間違いないが、市場が落ち着いた時には勝負は終わっているのだろう。
<文/一田和樹>
◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」