写真に写る情報で重要なのは顔だけでない。近年、
指の写真から指紋を復元して、指紋認証を突破する手法が出てきている。
スマートフォンのカメラは、ここ10数年で劇的に進化した。その結果、高解像度で、指紋まで確認できる写真を撮ることが可能になった(参照:
国立情報学研究所 講演スライド)。国立情報学研究所(NII)では、こうした問題を防ぐ研究もおこなっている(参照:
国立情報学研究所 ニュースリリース)。
指紋認証では、指紋の画像から端点や分岐といった特徴点を取り出し、本人確認に利用する。この特徴点の取り出しを防げば、指全体を隠さなくても、指紋認証を失敗させられるというのが、アイデアの根幹だ。
特徴点の認識を妨げるパターンを指に被せる。ただし、指で実際に触れる指紋センサーの認識は妨げない。そうした手法が考案されている。また講演スライドでは、指に被せたシールや皮膜の廃棄についても触れている。そこには指紋が残っているので、安易な廃棄は指紋を盗まれることに繋がる。
指紋認証は、スマートホンにも搭載されている身近な生体認証だ。それだけに気を使う必要がある。
人の認識を欺く 第一次世界大戦で多く見られたダズル迷彩
機械の目や、アルゴリズムによる認識を防ぐのは、とても特殊な行為に思えるかもしれない。しかし人類は昔から、狩りをする際に姿や臭いを変えるなど、他の動物の感覚を欺く手法を駆使してきた。また軍事の分野でも、迷彩服など敵の目を欺く技術を開発してきた。
そうした欺くテクニックの中で、他者の認識を騙す技術の代名詞のように出てくる「
ダズル迷彩」について触れておこう。
ダズルとは幻惑という意味である。幻惑迷彩とも表記されるダズル迷彩は、第1次世界大戦でドイツの潜水艦「Uボート」の攻撃を回避するためにイギリスで開発された。ダズル迷彩は、目の錯覚を利用して、船の速度や方向を分かりにくくするというものだ(参照:
コトバンク)。その特徴的なビジュアルは、人々の記憶によく残る(参照:
Google 画像検索)。
通常の迷彩が、姿を隠すための迷彩なら、ダズル迷彩は、
認識を誤らせるための迷彩と言える。人間の認識を欺き、距離や速度などを間違えさせる。こうした意図は、近年の機械やアルゴリズムを欺く方法と似ている。そのため、思い出されることが多いのだろう。
士郎正宗のマンガ『
攻殻機動隊』やその派生作品では、背景に姿を溶け込ませる光学迷彩が特徴的だった。しかし、現実の迷彩はそれだけではない。認識を混乱させられれば、姿を環境に同化させる必要はない。見えているけれど認識されない。そうした状態が存在するのだ。
新しいセンサーや、環境把握方法が登場すれば、それを騙すテクニックが登場する。機械の目が増え続ける現代では、様々な偽装方法やそれを防ぐ仕組みが登場していくだろう。
<文/柳井政和>