海洋放出反対派も賛成派も知っておきたい「トリチウム」の基礎知識

トリチウムの存在量は?

 東京電力によると、福島第一原子力発電所1号炉から3号炉で発生するトリチウムの起源は、その大部分が「核燃料の三体核分裂(ウランが核分裂により三つの原子に割れる反応)」であり、二番目がコリウム中に取り込まれた制御棒の成分であるホウ素10、そして冷却水に含まれるリチウム6などの放射化(中性子捕獲核反応)によるものとのこと*で、二番目のホウ素10の反応経路以外は、冷却水を止めて水を除去すれば生成を止められます。 <*福島第一原子力発電所でのトリチウムについて2013/02/28東京電力pp.3>  逆に言えば、地下水が流入し、冷却水を注入し続ける限り、福島第一原子力発電所では、トリチウムが大量に発生し続けることを意味します。前回、失敗に終わった地下水の流入停止と、コリウムの水冷中止が最優先課題であると指摘した理由がこれです。  トリチウムは、自然界にも僅かながら存在しますが、現在人間が住む環境にあるものは、その殆どが核実験と原子力・核産業に由来するものです。とくに大気圏内核実験による影響は激烈なもので、最大で数千倍まで大気中のトリチウム濃度が増えたとされています。これは、ビキニ水爆実験による第五福竜丸被爆事件などを契機とした全世界での反核運動の盛り上がりとあわせて部分的核実験禁止条約締結(PTBT)*への原動力となったとされています。
大気中のトリチウムの化学形ごと年変化

大気中のトリチウムの化学形ごと年変化
もともと地球大気中にはHT(三重水素化水素)の形で0.1mBq/m3の濃度でトリチウムが存在していたと思われる。トリチウムは、核実験により急速に増加し、核実験最盛期にはもとの1000倍を超えるまでに増加していたと思われる。PTBT発効後、トリチウムは漸減し、今日では概ね数十mBq/m3である
百島則幸,トリチウムの環境動態, 富山大学水素同位体科学研究センター研究報告20, 2000, pp.5

PTBT発効後の環境中トリチウム濃度減少が鈍い理由

 PTBT発効後、環境中のトリチウム濃度は漸減していますが、考えられていたよりは減少率が鈍いとされています。その理由は、全世界で原子力・核施設由来のトリチウムが増加しているためと考えられています*。いずれにせよ現時点では、大気中のトリチウム濃度は、数十mBq/m3程度、海水は表層水で0.1〜0.5Bq/L程度、陸水(雨水や河川)で0.5Bq/L程度まで減少しています。 <*百島則幸,トリチウムの環境動態, 富山大学水素同位体科学研究センター研究報告20, 2000, pp.1-10>
太平洋での海洋中のトリチウム濃度の深さ依存(1973年と1982年の比較)

太平洋での海洋中のトリチウム濃度の深さ依存(1973年と1982年の比較)
深海へのトリチウム拡散が少なく、PTBT発効後、表層水でのトリチウム濃度が減少していることが分かる
百島則幸,トリチウムの環境動態, 富山大学水素同位体科学研究センター研究報告20, 2000, pp.7

 次は、トリチウムの生体への影響ですが、この項目は本記事1本分を超えるたいへんに長いものになりますので、今回はここで終わりとしてトリチウムの生体への影響は次回とします。
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「科学」を殺す、科学オタクの「言葉狩り」
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