「授業の一環」としてのオリンピック観戦、生徒の熱中症対策は十分なのか。

医療の専門家ですら警鐘を鳴らす酷暑に、子どもは耐えられるか?

 東京都小学校PTA協議会、東京都公立中学校PTA協議会、東京都公立高等学校PTA連合会にも同様の質問メールを送ったが、いずれも回答はなかった。つまり、親権者が個別に子どもの熱中症リスクの責任を負うしかないのだ。これでは、PTAの役員離れが進むのも道理だ。  校長会にも、教委にも、PTAにも、熱中症から子どもを守る熱意や責任は感じられない。もはや、子どもにとっては、自分たち自身でリスクを考え、友達を誘い合ってみんなで観戦をボイコットする以外に、身を守る方法はない。チケットを返上するのも、子ども自身の自由。それが、自己責任で死ぬよりマシな最善の選択肢といえる。  五輪の組織委は、財務も会議録も公表しないし、熱中症対策もお遊び程度。ボランティアや観戦者、選手に対してすら、「参加したい人は自己責任」の姿勢を貫いている。  せめて五輪の選手やボランティア、観客、スタッフに病人、死人が出た際はすぐに発表してほしいが、IOCにすら平気で「日本の夏は温暖」「4000億円で開催できる」とウソをついて世界中をだましてきた組織委に「3度目の正直」はあるだろうか?

「子どもたちが熱中症になった場合の責任が、引率した教師に降りかかってしまう」

 昨年11月、日本医師会と東京都医師会は桜田義孝・五輪相と面会し、マラソンのスタート時間を午前7時から5時半に前倒しすることを要望した。これを受け、組織委は今年4月、50キロ競歩(8月8日)を午前5時半に前倒しする日程を発表。 (※今年の8月8日の最高気温は35.5℃。「運動は原則中止」の酷暑レベルだった)  しかし、2017~2018年の夏に午前5時から10時までコースを検証した中京大の松本孝朗・教授(運動生理学)の研究グループは、「熱中症リスクはほとんど緩和されていない」と指摘。今年9月19日の日本体力医学会大会(茨城県つくば市)で、競歩コース全体への天幕の設置を改めて提言した(朝日新聞2019年9月17日付より)。  医療の専門家が懸念する熱中症に対する五輪関係者の無策や、組織委の無責任ぶりについて、早くからさまざまな五輪問題を指摘し、著書『ブラックボランティア』(角川新書)にまとめた作家の本間龍さんは、以下のように語った。 「校長会や教委の無策・無責任ぶりには驚かされるが、オリパラ組織員会の無責任さはこの上を行っている。  私は9月に組織委に対し、ボランティアや観客(小中学校の子どもたち含む)が熱中症になった場合は組織委が責任を取るのかと公開質問したが、それに対する答えは『ケースバイケース』『組織委の責任に帰する場合は責任を取る』など、全く要領を得ないものだった。  このままでは無責任の連鎖により、最終的に子どもたちが熱中症にかかった場合の責任は、全て引率した教師に降りかかってしまう。こんな馬鹿げたことは、絶対に阻止しなければならない。弁護士や医師などを入れた追及団体を立ち上げて、公式な声明と公開質問、公開討論を仕掛けた方が良い」 <文/今一生>
フリーライター&書籍編集者。 1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。 その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。 著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。
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