「3割超えは当たり前で5割超えて少し積みすぎくらいの感覚」、「土木建設業界の現場は無法地帯」、中には「いつ事故の当事者になるか知れない」と、自身の身の危険を訴えてくるドライバーもいる。
そんな中、トラックドライバーが所属する業者は、荷主から
「積めなきゃ他の会社に任せる」と言われることを恐れ、「客の要望なら仕方ない」と、暗に過積載をドライバーに指示してしまうこともあるという。
いわずもがな、過積載はドライバーだけでなく、運送業者や荷主も処罰の対象になるのだが、事故が起きた場合、誰よりも心に傷を負うのは、他でもない自社のトラックドライバーなのだ。
筆者がある日、SNS上で現役トラックドライバーに投げた「今までの大失敗は何か」という質問に、こんなメッセージが届いた。
「自分は以前過積載で事故を起こしてしまいました」
「よかったら詳しく話を聞かせてくれないか」と返信したところ、しばらく彼からの返事は途絶えた。
長いメッセージが返ってきたのは、それから半年ほどしてからだった。
「積み場所にいくと、そこには10トン分の積み伝票の他に、もう一枚『ウン千キロ』と書かれた別伝票がありました。
荷主に『積まなきゃ駄目か』と尋ねると、出来れば積んで欲しいとのことでした。会社に連絡したところ、
管理者から『積め』との命令があり、荷主の指示通り積んで出発しました。
夜中に時速70キロで走行中、赤の点滅側から軽自動車が一時停止せず道路に進入。ブレーキをかけましたが、間に合いませんでした。
即座に警察と、救急車を呼びました。が、軽自動車の運転手は死亡。
死因はシートベルトが胸に食い込んだことによる心臓破裂でした。まだ20歳の大学生。外傷もなく口から血を出した状態でした。シートベルトが胸に食い込んでおり、ハサミでベルトを切った記憶があります。
現場検証後、自分は免許停止になりました。会社と荷主は、は10日の営業禁止。他ドライバーからは『オマエのせいで生活出来ない』と罵声されました。
指示したのは会社の運行管理者なのに、なぜ自分が非難されるのか。当時若かった自分には、不思議でなりませんでした。
結局、他の社員からも見放され、孤立した自分は、会社を辞めざるを得なくなりました」
現在彼は、別の運送会社で働いている。
こうして、荷主や所属会社の指示によって事故を起こしてもなお、彼は「会社を辞める前、辞めてからも、お客様あっての仕事。お客様から仕事をいただき、生活させていただけている。その気持ちは今も昔も変わっていない」と話す。
一般的に、過積載の責任はドライバーにあるとされがちだが、彼らは過積載で損をすることはあっても、得をすることはほとんどない。
今回話を聞かせてくれた彼が、この半年の間に振り絞った「勇気」と「記憶」と「懺悔の思い」。未だドライバーに過積載をさせる荷主や運送企業には、どうか、こうした切実な声を無駄にしないでいただきたい。
<取材・文/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
@AikiHashimoto