―― 社会運動を行っているのは左派だけでなく保守派も同様です。日本で言うと、自民党議員たちは農協や郵政、業界団体などによる社会運動に支えられ、国会に送り込まれた人たちです。彼らに対抗するには、彼らと同じくらい社会運動を積み重ねなければなりません。そう考えると、左派が自民党に対抗していくことは困難のように思えます。
斎藤幸平氏:確かに自民党が地域や業界と密着していることは事実ですが、業界団体の要求がそのまま自民党の政策に反映されているわけではありません。
自民党と業界団体の間には民主主義的な構造がないですし、業界団体内にも民主主義的構造がありません。
また、小泉政権以来の構造改革やTPPに代表されるように、自民党は業界団体を攻撃してきました。そのため、業界団体がどんどん離反しています。それは自民党の選挙における得票数が低下していることからもわかります。
さらに、最近では業界の利権の外にいる人たちがたくさん生まれています。派遣労働者や非正規労働者などがまさにそうです。そこから考えると、既存の政治に自らの声が反映されていないと感じる人々は多いはずで、左派ポピュリズムのポテンシャルはある。
資本主義が限界に達し、さまざまな危機が同時多発的に起きている現代は、簡単には処方箋の描けない時代です。だからこそ、人々の苦しみや模索のある社会運動の現場こそ、あらたな解決策が生み出される場です。左派ポピュリズムの強さはそこにある。
「選挙に行こう」と呼びかけるだけでは、左派に勝ち目はありません。また、
太郎さんのカリスマ性に依存していてもだめ。社会運動を強くし、政治と結びつけていくモデルを日本でも真剣に作りあげていかなくてはならない段階に来ているのです。
(聞き手・構成 中村友哉)
斎藤幸平(さいとう・こうへい)
1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。Karl Marx’s Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』)によって、2018年度ドイッチャー記念賞を日本人初、最年少受賞。新著『未来への大分岐』(集英社新書)では、マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソンら、欧米の一流の知識人と現代の危機について議論を重ねた。
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@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。