「復興五輪」こそが復興を阻んでいる。元南相馬市町・桜井勝延氏、魂の叫び

南相馬市鹿島区

2017/03/20撮影の南相馬市鹿島区 (いがぐり / PIXTA(ピクスタ))

人の命を軽んずる「東京五輪」

 2020東京オリンピック開催まで一年を切った。  しかし、今夏の猛暑からも明らかなように、東京五輪は人命を脅かしかねない危険な「運動会」である。  今日9月20日発売の『月刊日本 10月号』では、「酷暑・放射能 東京五輪が危ない」と題する特集を打ち出し、さまざまな識者の声を紹介している。  今回は、その中から、元南相馬市長である桜井勝延氏へのインタビューを紹介しよう。

復興を邪魔する「復興五輪」

―― 桜井さんは福島県の南相馬市長として、東日本大震災への対応や復旧復興の先頭に立ってきました。その立場から「復興五輪」をどう見ていますか。 桜井勝延氏(以下、桜井氏):五輪そのものを否定する気はありませんが、「復興五輪」は復興とは何の関係もありません。被災地から聖火ランナーが出発して、福島で野球やソフトボールの予選を行えば復興が進むのか。単なるパフォーマンスにしか見えません。  そもそも招致委員会の竹田恒和理事長は、「福島と東京は250キロ離れている。東京は安全だ」と発言して東京五輪を招致しました。しかし、この発言は被災地の人々を「原発250キロ圏内は安全ではないのか」と悲憤させ、復興のために頑張っている人々を傷つけました。  安倍総理も五輪招致の際、汚染水は「アンダーコントロール」だと断言しました。しかし、汚染水問題は未だに解決しておらず、最近では汚染水の海洋放出が議論されています。しかし、福島の漁業は試験操業の段階で本格操業は再開できず、復旧もできていないのです。それでもこの8年間、漁獲物の放射線量を毎回測定して、必死に福島の水産物は安全だという信用を積み上げてきたのです。この状況で汚染水の放出などされたら、福島の水産物は風評被害に晒され、8年にわたる漁業関係者の努力が打ち砕かれます。  そもそも福島第一原発が作り出した電気は東京で使われていたものです。原発事故を起こしたのは東電なのに、なぜ福島県民ばかりが被害を受けなければならないのか、いつまで福島を犠牲にし続けるつもりなのか、海洋放出がやむをえないというならば東京湾で放出したらどうだという思いです。  安倍総理は旧民主党政権の批判がお得意ですが、2012年に政権が民主党から自民党に変わっても復興の在り方は変わりませんでした。当時、安倍総理は「福島の復興なくして東北の復興なし、東北の復興なくして日本の再生なし」と言っていましたが、その言葉が本当に実行されているかは疑問です。  2013年には東京五輪の開催が決定しましたが、「復興五輪」が復旧復興を遅らせた側面もあるように感じます。2013年以降、建築資材の価格が上昇して入札不調が多くなったり、技術を持つ建築業者が東京へ呼ばれて人手不足になることがありましたが、そこには五輪の影響があったと思います。  当時、私はよく東京へ出張していましたが、都内の再開発や豊洲移転の工事現場にあるクレーンの数の方が、被災地や福島第一原発にあるクレーンの数よりも断然多かった。そういうことです。
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戻ってこない子育て世代。進む人口減少
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