トラック運転手の労働環境はなぜブラックになってしまうのか? ドライバーを縛る「荷主第一主義」

産業界に定着する「ジャスト・イン・タイム方式」の弊害

 ここまで荷主が「時間」にうるさくなるのは、昨今、日本の産業界で定着している「ジャスト・イン・タイム方式」と呼ばれる生産方法に要因がある。  某自動車メーカーが開発したとされる同方式は、「必要なもの」を、「必要なとき」に、「必要な量」だけ供給するという考え方で、今や「無駄を省く」、「効率を上げる」を徹底する日本の産業界に幅広く浸透している。  しかし、この方式を採用した場合、会社は「時間ちょうど」にその品物や製品が必要となるわけで、さすればそのあおりを受けるのは、必然とそれらを運ぶトラックドライバーとなる。  渋滞していようが、逆にどれだけ早く着こうが、彼らはとにかく「時間通り」に現場入りすることを求められるようになるのである。  それでいて着荷主自身は、余裕のある時間配分をしているのか仕事が遅いことも多く、時間通りに到着しても荷降ろしさせてくれなかったり、他トラックの作業が終わるまで3時間以上待たせたりもするため、トラックドライバーの拘束時間は伸びる一方。  走行中、あれほど神経をすり減らして調整する「時間」は、ひと度現場に到着すると、今度は「潰すもの」と化すのだ。  現在、多くの荷待ち現場では、他トラックが作る長い列の最後尾に並び、前車がじりじりと動くたびに自車も前へ進ませねばならず、車内のドライバーはおちおち休憩もしていられない。  長時間運転し、軽い仮眠しかとっていない彼らにとって、この待ち方は、非常に辛い。時には、寝落ちしたところ順番を飛ばされ、痛み分かち合うはずのドライバー同士でトラブルになることもある。

「働き方改革」はトラックドライバーには適用されていない

 最近は、ドライバーに携帯を持たせ、順番が来ると連絡してくれたり、最新のスマホアプリで呼び出してくれたりする荷主もようやく徐々に増え始めているというが、それでも、筆者が現役時代の時からあるこの古い原始的な待ち方が、今でも変わらず王道であり続けていることに、物流業界全体の「体制の古さ」を垣間見るのだ。  ちなみにこの「ジャスト・イン・タイム方式」は、筆者に毎度「会席コース料理」を連想させる。あれほど繊細な味の料理を、ほどよい量、絶妙なタイミングで順に提供する日本のサービス意識。  その「滞りない流れ」に対する感覚は、業界や分野関係なく、日本に染みついているものなのだと、元トラックドライバーとしても、元工場経営者としても、外食好きとしても思う。  昨今これほどまでに騒がれている「働き方改革」だが、日本の経済を下支えするトラックドライバーの働き方は、この「荷主第一主義」という業界に蔓延る古い商習慣のせいで、未だほとんど改善されていない。  日本の物流におけるサービス意識は、間違いなく世界が真似できぬ程高い。高品質のサービスのためには、「滞りない流れ」に対する感覚も必要不可欠だろう。が、誰かの犠牲のもとに提供されるサービスは、もはやサービスでもなんでもないと筆者は思うのだ。 <取材・文/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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