飛騨市・都竹淳也市長
シンポジウム後半では、飛騨市の市長である都竹淳也氏(オンライン参加)を交えて、実際に飛騨市と関わりのある登壇者らによるトークセッションが行われた。
都竹市長は、「都市と田舎の二元論についての話に及ぶことが多い一方、関係人口を地方創生の文脈で語るのではなく、まずは飛騨市の魅力に気づいてもらい、足を運んでもらえれば、誰でも関係人口になれると思っている」と、関係人口のハードルを下げて、実際に現地へ来てもらうことが大切だという想いを語った。
未来のコミュニティ研究室に属する楽天株式会社は飛騨市とともに、地域の魅力についての情報発信を推進。新しい層に興味関心を持ってもらうよう努めている。
このような取り組みを実行していくことで、関係人口が自然発生的に増えて、想像もしていないような街の変化が起きることの方が、計画を綿密に立てすぎるよりもいいのかもしれない。
移住となるとハードルは高いが、来て何かするだけなら敷居が低くなる。現地の人とお酒を飲んだり、雑談したりと地域とゆるく関わりを持つこと。何かしらの接点を作ることがまず第一で、結果的に移住や過疎化の解消に繋がれば良いのではないだろうか。
次に登壇者らが、飛騨市と関わりを持つようになった経緯や関係人口を増やすために大切なことについてのセッションが行われた。
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現地に行き、地域起こし協力隊のことを知ったことで関わり合いを持った。」(飛騨市地域おこし協力隊 岡本氏)
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会社の関係で、飛騨のものづくりカフェに行く機会があり、1ヶ月滞在したことから、東京と飛騨を行き来するようになった」(小さなお宿やまなみ女将 中村氏)
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スーパーカミオカンデの公開見学に抽選で当たり、見に行ったことがきっかけ。その後ボランティア活動に参加するようになり、飛騨市との交流を深めた」(東京大学大学院博士課程学生 吉岡氏)
会社の出張や観光を通して飛騨を訪れ、また何かのきっかけで飛騨を訪れる。偶然が何度も重なることで、関係人口になる事例が多いのではと感じる。
現地で手厚いおもてなしを受けたり、飛騨牛のお店で色々な人を紹介してくれたりと、地域の人との仲を深めることで次第に何度も足を運ぶようになっていく。そう考えると、居心地の良さが一番大事な視点なのではないだろうか。
「観光や遊びだけでなく仕事でやってくると、街の夜が変わる。そこで新たな出会いが生まれて共感や共鳴が起こる。それを関係人口のリーダー的な存在の人が、SNSを通じて発信していけば、関係人口の魅力に気づき、地域に関わる人が増えるのでは」(楽天株式会社CWO・小林正忠氏)
田舎を持たない都市の人が、自然に触れられる環境があり、もう1つのふるさとと思ってもらう。都市の人間が今の生活にプラスして、地域と関わりを持つメリットを感じることができれば、金銭的ハードルや心理的ハードルを乗り越え、地方に移動するようになるのかもしれない。
「かつては生まれた場所を定住地として子供を育て、一生を過ごした。それが近代化していくにつれ、都市部に移り住んでいく流れができてきた。個人の感覚で移住や関係人口として関わることなど選択肢が増えてきた」(東京大学助教・杉野弘明氏)
住む場所の選択肢が増えてきた中、関係人口を地方創生の文脈で考えると、行く側は観光目的ではなく地域の課題に向き合い、現地の人と関係を育むことを意識する。受け入れ側は関わりしろを作り、コミュニティとして入り込める余地を残しておく。受け入れ側と行く側双方の質が大切なのではないだろうか。
また、関係人口はグラデーションのように捉えることもできる。関わりの薄いところと、濃いところ。関係人口としてその地域がなくてはならないものか、そうではないのか。関係人口と思えるほどのかけがえのない場所になっていけるかどうかが、地域社会の持続可能性を決める1つの指標になるだろう。
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。