家の5分の1を差し押さえられた人に降りかかった理不尽<競売事例から見える世界39>

差し押さえイメージ

NOBU / PIXTA(ピクスタ)

声を荒げる債務者に思わず共感!?

「どういうことなんですか!? だから、どうしろって言うんですか?」  この仕事では理不尽に声を荒げる債務者や占有者と出会うこともしばしばあるのだが、今回ばかりはそんな荒ぶる声にも「そりゃそうだ。アンタが正しい」と思える事案だった。  これまでに3度ばかり執行官からの説明はあったのだが、一向に理解ができないという占有者男性のため、4度目の説明が入る。 「ですから、このお家の5分の1を差し押さえさせていただきますよということなんです。5分の1と言っても家を5等分してそのうちの1つを持っていってしまうということではなく、あくまでも権利の問題なんです」 「だから、それが全くわからないって言ってんの。その5分の1の権利を譲り受けた人が“この家のトイレは今日から俺のものだ”って言ったら、俺トイレ使えなくなっちゃうの?」 「トイレがこの家の5分の1相当なのかという問題もありますが、仮に話し合いでそう決まってしまった場合には、トイレが使えないという可能性も無くはないです。けど、そう端的に行使されることも少ないと思います」 「だから、どうすりゃいいのよ……」

5人兄弟で権利保有していた家。そのうち一人が債務不履行となり……

 埒が明かないため、今回の物件について、そして差し押さえ・不動産執行発生の経緯を追ってみたいと思う――。  地方都市の古びた住宅街。元々道路幅の狭い地域に無理やり築かれた住宅地であるため、セットバック(道路拡幅などのために行政の求めに応じて土地を後退させること)に応じた家、応じる約束のみの家、セットバックを想定して建てられた家が混在するという凸凹感の否めない統一感無き町並み。  そんな町並みで建物ギリギリまでのセットバックに応じた築25年の2階建てが、今回の当該物件だった。  外観からも湿気による被害が見て取れ、モルタルの外壁にはひび割れも目立つ。住んでいる占有者は40代後半の男性と奥さん、そして同じく40代後半の知人男性という3人。  当該物件は両親の他界時に兄弟5人が当分権利で相続したものだったが、当時持ち家の無かった占有者が協議の上専有するに至った。ところが、権利を有する別の兄弟が債務不履行に陥り、当該物件5分の1が差し押さえられるという危機に直面している。  よって、占有者男性に落ち度はない。しかもある日突然、家の5分の1を差し押さえると他人がズカズカ上がり込み、これに対する拒否権もないという事態であり、声を荒げた応対をしてしまうことにも納得の案件だった――。
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理不尽だらけの執行手続き
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