家の5分の1を差し押さえられた人に降りかかった理不尽<競売事例から見える世界39>

理不尽だらけの執行手続き

「じゃあわかった。これまでウチみたいに5分の1差し押さえられた人の多くはどうなっちゃったの?」 「そうですね。こういうことはあまりお答えするべきではないのかもしれませんが」  前置きがあり、執行官から一例の紹介が入る。 「こういった権利を購入した方の多くは、実際に権利が欲しくて入札するわけではありません。権利が他人に分割されて困ってしまう方に“買いませんか”という交渉を持ちかけてきます。つまり購入後、この家に住んでいるアナタに対して“困る前に買いませんか”という具合に話を持ちかけてきたり、家賃相当額の5分の1を支払うよう求めてきたりするかもしれません」 「止めるにはどうすればいいの?」 「債権者の方に一括で債務を支払うしかありませんが、その場合権利は動かないので権利は債務者さんが持ったままになり、またいつ競売にかけられるかわかりません」 「じゃあ競売で落札すればいいってこと?」 「入札価格は安いと思いますが、記入した額より高い額を提示した人がいた場合は落札できません。無事に落札できた場合も一括で残額を収めなければなりません」 「他の人が買っちゃった場合は?」 「そうなってみなければわかりませんが、多くの場合、先程申し上げた通り“買わないか”という提案があるかもしれませんので、交渉次第で分割購入も可能になるかもしれませんし、家賃の5分の1を払えという場合は、そんなに高くない額を支払い続けることで住み続けて良いよと言ってもらえるかもしれません」

何の落ち度もないのに、打つ手なしという地獄

「他に方法があるとすれば?」 「評価額が出てから任意売却業者を挟むという方法もあるかもしれませんが、評価額を上回る色をつけてあげないと話が進まないので、競売での落札より出費が多くなる可能性もあります」 「だから、どうすりゃいいのよ…」  確かに当事者とすれば頭を抱えてしまう事案ではあるが、我々は答えを提示する立場にはないため当該物件を後にする。  今回の事例のように、落ち度無く日々を暮らしている人々に対し、突然「正解」や「最良の選択」を見出すことが難しい、“禅問答”めいた問いを投げかけるという現場に立ち会うことも少なからずある。  真っ白になってしまった頭で期間内にいずれかの選択を迫られることになるわけだが、このような事例に見事な対応ができるものはどれだけいるだろうか。もしも同様の問題が自分に降り掛かってきた場合、どのような対応をするだろうか。  そんなシミュレーションをしてみても、やはり彼と同じ言葉が脳裏に繰り返し現れ、いずれは考えることをやめてしまう。 「だから、どうすりゃいいのよ……」 <文/ニポポ>
全国の競売情報を収集するグループ。その事例から見えてくるものをお伝えして行きます。
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