京急脱線事故のトラックは、なぜ小道に迷い込んだのか。ドライバー視点で考察する

意図せず小道に迷いこんでしまったドライバーの心中を察する

4.左折より右折しやすい (※入稿後、同トラックが最初に左折を試みたという報道があったが、ドライバーの一般心理として、こちら削除せずに記述する。)  もし道に迷っていたのなら、どうしてトラックは「左折」ではなく「右折」したのか。  この点においては、ドライバーの「無意識の心理」が働いたのかもしれない。  というのも、右ハンドルのクルマで、対向車のない小道などを曲がる場合、運転席が内側になる右折のほうが楽なのだ。  とりわけトラックは構造上、一般車以上に左側に大変多くの死角を作るため、狭い小道に迷い込んだ場合、無意識のうちに左折よりも右折を選ぶことが多くなる。  今回のトラックドライバーが、上記のような状態だったかは原稿執筆時点では不明だが、いずれにしても大型車は、ひと度道を間違えると、Uターンしたり右左折しなければならなくなる。それは、図体の大きい彼らにとって、思った以上にリスキーなのだ。  しかも、大きな道に出ようと、焦ってむやみに右左折を繰り返すと、なぜかより幅の狭い道にはまっていく。本来入ってはいけない道に大きなトラックで迷い込んだ時の心情は、普通車では感じ得ないほどの苦しさがある。  ドライバーでありながらも超の付くほど方向音痴だった筆者には、同じような経験が幾度となくあった。特に住宅街や田んぼ道に迷い込むとなかなか「同業者」がおらず、今後起きる全てのことは自分で対処せねばならないというプレッシャーに苛まれるのだ。  

同業者「おそらくパニックになったのでは」

 今回の事故を受け、SNSで現役のトラックドライバーに問うたところ、多種多様な推察をいただいたので一部紹介しておこう。 ●普通プロドライバーならば、踏切内に立ち往生するような事はないと思う ●進入しようとしている道が来た道より広いので、頭をめいっぱい出せば曲がれたのではと思います。リア(後ろ)のオーバーハング(後輪よりも後ろにはみ出した車体)がどれぐらいあったか分かりませんが ●おそらく狭い道幅で右折して内輪側が何かと接触。なおかつリアがオーバーハングして左後ろが障害物に接触してどうにもならない状態になったのかと。道民からしたら、たまげるほど道が狭いので本州へ行った時は必ず下調べします ●千葉に戻るのに下道での最短距離を取ったのか? ●他人事とは思えない。お気の毒に…。止まる勇気。戻る勇気 ●車幅や高さをも考慮してくれる大型車専用の有料カーナビでなく、無料のナビだとルートが違い、トラックが通れない道も案内する。googleナビはそんな危険性がある  ある運送企業経営者の1人は、 「このドライバーさんは、どんな思いをしてこの小道を走ったのか。きっとパニックになりながら必死になっていたんだろうなと。自分にもそういう経験があるから、余計にいたたまれない。大型車対応のカーナビは、有料であることがネック。トラック協会も、ナビ全車搭載を見据えた助成制度を考えてくれるとありがたい」  と話す。  また、某物流関係企業の人事担当者からは、 「私の勤め先でも、経路間違いの結果、狭い道に迷い込み、沿道の塀等に接触したという事例は複数あります。担当する納入先は大変な数になりますし、すべてを完璧に覚えて間違いなくというのは、いくらプロでも限度があると考えています。  よって、プロのクルマこそ、きちんとした大型車用ナビを設置する、出発点呼時に納入先へのルートや要注意箇所を相互確認するなどの、送り出す側としてやるべきことがあると思っています」  との意見をいただいた。    いずれにしても、ベテランのドライバーがどうして小道に入り、非業の死を遂げたのか、心情を考えると悔しくてならない。再発防止のためにも、早急の解明が待たれる。 <取材・文/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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