「ユニゾ」対「HIS」のTOB対決に見るサラリーマン経営の危うさ

ホテルユニゾ渋谷

ユニゾHDの運営するホテルユニゾ渋谷 photo by Abasaa via Wikimedia Commons(Public Domain)

 オリンパス事件をはじめ数々の経済事件を裏側を暴いてきたWebメディア「闇株新聞」。昨年7月に突如休止したヤバいメディアが1年の充電期間を経て復活。今回、闇株新聞が注目したのは旅行大手HISがTOBを仕掛けた旧・興銀系一部上場企業だった。 闇株新聞ロゴ

割安に放置されていたユニゾ。その理由は……

 ユニゾホールディングス(以下、「ユニゾ」)は、旧・日本興業銀行(現・みずほ銀行)系の不動産業を展開する東証1部上場会社で、旧社名は常和興産である。  2019年3月期における通年の売上高は560億円、経常利益は118億円。2019年4~6月期に限ると売上高が119億円、経常利益は23億円。また2019年6月末現在の純資産は1090億円となっている。  旧・興銀系の不動産会社だったため保有不動産の含み益は大きく、含み益を反映した株価は1株=7000円台後半ともいわれている。  そんなユニゾの本年6月末の株価は1844円で時価総額は631億円。その時点におけるPBRは0.58倍であった。不動産の含み益を反映した実質PBRを計算すると0.25倍ほどだったはずである。  最近の日本の株式市場では珍しくないが「大変割安に放置されている会社」であった。その理由の一端は、ユニゾの経営陣の大半が旧・興銀およびその親密会社出身のサラリーマンばかりで、大株主も(銀行は大株主にはなれないため)旧・興銀系の不動産会社や親密取引先が並んでおり、「銀行出身のサラリーマン経営者が何の緊張感もない経営を続けていた」ところにある。

緊張感のないサラリーマン経営企業を襲った青天の霹靂

 ところが7月10日に株式会社エイチ・アイ・エス(以下、HIS)がユニゾに対する株式公開買い付け(TOB)を公表する。まさに青天の霹靂だったはずであるが、2019年3月末時点でHISはユニゾ株式の4.52%を保有する筆頭株主であるため、それ以前に何の接触(提携提案など)もなかったはずがない。  そこはプライドだけは高い旧・興銀出身が大半を占めるユニゾ経営陣。「たかが新興の格安旅行業者(HISのこと)ごときが生意気に!」と無視していたのであろう。  そこでHISはTOB公表となったわけであるが、買い付け価格の3100円は、その時点の株価(TOB公表前日である7月9日の終値)の1990円より55%も高く、PBRはほぼ1倍に設定されていた。また買い付け上限を45%としているため(その時点のHISの保有株と合わせると50%を超えるが)、HISはユニゾの上場を維持したまま、大株主として協業の道を探っていくつもりだったはずである。  つまりこの時点のHISのTOB提案は、ユニゾにとってもユニゾの株主にとっても許容範囲だったはずである。何しろそれまでのユニゾの「ぬるま湯経営」により割安に放置されていた株価がほぼPBR=1倍まで回復したからである。
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HISのTOBでパニックになったユニゾ経営陣が頼った先は……
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