「ユニゾ」対「HIS」のTOB対決に見るサラリーマン経営の危うさ

突然のTOBでパニックになったユニゾ経営陣が頼った先は……

 ところがパニックとなったユニゾのサラリーマン経営者は、早速フィナンシャルアドバイザーに三菱モルガンスタンレー証券と大和証券、法務アドバイザーにTMI総合法律事務所と西村あさひ法律事務、税務アドバイザーにEY(アーンスト・ヤング)税理士法人など「大変に値段が高い」アドバイザーを必要以上に多数雇って対抗する。  もちろん、ユニゾの一般株主のために最良の判断をするため、とは考えられない。「新興の格安旅行会社」を排除するためである。  7月23日には反対表明を出しているが、理由を見ると、シナジーがない、当社(ユニゾ)の企業価値を棄損するなど根拠が薄弱なものばかりである。7月23日時点のユニゾの株価(終値)が3240円と、HISのTOB価格を上回っていたため、買い付け価格が不十分であるとの理由もあった。  確かにその通りであるが、それはこれまでのユニゾのサラリーマン経営者による「ぬるま湯経営」で株価が割安に放置されていたことに起因する。  HISが最後までTOB価格の引き上げに応じなかった理由は(8月24日に申し込みゼロで不成立が確定)、ホテル事業も行うHISにとってこれ以上の株価では魅力がないと判断したからであろう。

米投資ファンド、フォートレスを選んだ判断は是か非か

 一方、ユニゾに対しては、8月16日にフォートレス・インベストメント・グループ(実際の公開買付者は子会社のサッポロ合同会社)が1株=4000円でTOBを公表し、ユニゾは同日に賛同表明をしている。TOB成立の最低株数は66.7%で上限は100%なので、TOBが成立すれば定款変更で全株取得した後、ユニゾは上場廃止となることを前提にしている。  フォートレス・インベストメント・グループは本年2月にソフトバンクグループが33億ドル(運用資産額などから考えると非常に高い!)で買収しているが、ソフトバンクはフォートレスの経営や運用方針に口出しができないはずである。  そこで問題は、ユニゾが前出の「大変に値段が高い」アドバイザーが選んできた16もの候補からフォートレスを選んだと公表している点にある。なぜ、新興の格安旅行会社のTOBを排除するために、歴史のあるユニゾを外資系ファンドに売り渡さなければならないのか?  フォートレスに限らず外資系ファンドのTOBは、自己資金が3割程度で残りは借り入れで賄う。フォートレスも全株取得した場合の予定資金1375億円のうち自己資金は375億円で、残る1000億円は借り入れると公表している。  そしてこの1000億円の借り入れを返済するのは、全株を取得するフォートレスではなく、TOBの成立で非上場会社となるユニゾそのものである。今後はあくせく働いて稼いだ利益の大半で「自分を買収するための借金」を返済することになる。TOB成立後に、そのTOBのための特別目的会社とユニゾを合併させてしまうからである。  もちろん再上場ともなれば、その上場益を独占するのはフォートレスである。何しろ自己資金を375億円しか投入していないないので、再上場時に1株=1100円くらいあればペイしてしまう。そんなフォートレスが、全株取得したユニゾの企業価値向上など目指すはずがなく、旧・興銀時代に取得した膨大な含み益がある不動産も叩き売られてしまうはずである。  従ってTOB価格が1株=4000円でも5000円でも、フォートレスにとっては大した問題ではなく、株価がTOB価格を上回ればTOB価格を簡単に引き上げられるので、よほどのことがなければTOBは成立してしまう。上場維持を前提としていたHISのTOB案とは単純比較ができないはずである。
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サラリーマン経営者の犯した過ち
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