北朝鮮の短距離弾道ミサイル、ゴルフに興じている余裕はないほど脅威である可能性も!?

イージス・アショア含むMD構想を揺るがす可能性も

 いずれにせよこの「低高度滑降・跳躍型飛行軌道」を特徴とする9K720/KN-23 SRBMは、現在の合衆国式ミサイル防衛の弱点を突いたものであり、迎撃はきわめて難しいとされています。更にこのミサイルは、半数必中界(CEP)が5〜7mと驚異的な命中精度を誇るとされています。  KN-23の弾頭質量は約500kgですので、これが音速の数倍から最大M6〜7で命中した場合、核弾頭でなくても耐えられる構造物はまずありません。  KN-23のもとになったとされるロシアの9K720(イスカンデル)は、INF全廃条約に対応するために核弾頭搭載能力を持たせていませんが、弾頭には生物、化学弾頭、各種通常弾頭、ロシア版バンカーバスターを搭載できるとされています。また、既出の合衆国MDAAは、北朝鮮版のKN-23が核弾頭搭載可能であると推測しています。  KN-23について、分かっていることはまだ少なく、それはどうかな?という情報もあります。例示した朝鮮日報2019年07月27日の図は、読んでいてかなり悩むものですが、「低高度滑降・跳躍型飛行軌道」を示す一仮説として見るべきでしょう。  しかしながら、試射から得られた情報では、KN-23はディプレスト軌道で上昇し、ミッドコース防衛の領域外で下降に転じ、THAADの射程外でTHAADが機能しない低高度滑空飛行に移り、その高度は現在配備中のPAC-3の射高以上となります。半数必中界が5〜7mであるならば、陸上固定目標を確実に破壊できることになります。  これは、萩へ配備予定のイージス・アショアが、安価な通常弾頭のSRBMに手も足も出すことが出来ず、先制奇襲攻撃によって僅か5〜7分で蜂の巣にされてしまうことを意味します。何しろKN-23は、固体燃料ミサイルです。燃料充填の必要がないので、前兆無しにいきなり撃ってこれますし、連射も次発装填もラクチンです。そして目立ちません。イージス・アショアが、まだ存在しないSM-6などで自己防衛するとしてもそれにより価格は大幅に跳ね上がります。虎の子の拠点防空用PAC-3をイージス・アショア直衛に用いるなど本末転倒です。そしてやはり飽和攻撃によって10分で無力化する恐れがあります。  また未確認ですが、もしも最終段階でプルアップし、M6(マーク6、音速の6倍)などの高速で垂直落下してくるのならば*、今後配備が始まるPAC-3MSEでの迎撃もきわめて困難となります。更にKN-23のもとになった9K720(イスカンデル)にはMaRVが用いられていて、終末段階での迎撃を回避するという説もあります**。 <*既述のように、固体燃料ロケットモーターの停止、再点火はきわめて難しいため、上昇専用のロケット燃料を何らかの形で搭載していないとプルアップ機動は困難である> <**但し9K720(イスカンデル)は、弾頭が分離しないので、MaRVと同等の機動性を持つとしては疑問が多々ある>  本連載において、ミサイル防衛では矛と盾の競争では、矛の方が圧倒的に有利であると指摘してきましたが、まさにその実例が目の前で展開されつつあると言えます。しかもこの矛と盾の競争、明らかに矛の方が先行しているのです。次回以降、このKN-23がイージス・アショア日本配備に及ぼす影響について現在手に入る情報に基づいて論考します。 『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』ミサイル防衛とイージス・アショア12 ※なお、本記事は配信先によっては参照先のリンクが機能しない場合もございますので、その場合はHBOL本体サイトにて御覧ください。本サイト欄外には過去11回分のリンクもまとまっております。
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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