債務執行現場で見た、転落した”もう一人の自分”<競売事例から見える世界37>

フリーライターという、不安だらけの自分を見た

 こうなると例え的外れな論点からであろうと“決定的な違い”をポンと打ち出したくなる感覚はどこからくるのだろう。  同じ思いは彼の中にもあったようで、彼なりの決定打が間髪入れずに繰り出される。 「いえいえ。自分はみなさんとは全然違う仕事をしていますよ。フリーライターですから」  一瞬呼吸を忘れ、次の瞬間には鼓動の大きなうねりとそれに伴う毛穴の開きが全身に広がって行くのを感じていた。それは紛れもない「恐怖」だった――。  フリーライターは消耗品。それを生業としている以上、いつ彼と同じような場所で躓き、そのまま転がり落ちていくかわからない。  それは防ぎようのない、単なる時間の問題であるかもしれない。  似たような条件で、似たような生業を選んだ彼の躓きを、いつものようにやり過ごし記憶の片隅に追いやってしまって良いのだろうか。  彼のような躓きを未然に防げないものだろうか。彼の躓きから何かを学べないだろうか。  これが一つの転機となった。

「もうひとりの自分」が気づかせてくれたこと

 仕事を増やし貯金ペースを上げる、外貨預金、外国債、ギャンブル的な投資、利回りの良い投資信託……本来の自分であれば検討すらしないであろう選択肢も含め、今後歩むべき道の比較検討を幾度となく繰り返す。  最終的に私の手持ちカードを踏まえたうえで実行が容易、かつ将来的な資産の増加が見込め、命題である“躓きの未然防止”が実現出来る回答として割り出されたもの…、それは「住宅ローンの早期返済」というものだった。  以降はある程度の貯金がまとまれば、住宅ローンを一部繰り上げ返済するというスタイルを貫いているため、銀行員からはどうも煙たがられる存在になってしまった――。 「住宅ローンがある」  当たり前にしてしまいがちなことだが、これは数十年に渡り「借金」という安全装置の外れた爆弾を落とさぬよう抱え続けること。それで良いわけがない。  そんなことを教えてくれたのは、恐ろしいほどに似ているもう一人の自分だった。
全国の競売情報を収集するグループ。その事例から見えてくるものをお伝えして行きます。
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