8050問題を巡る、社会・親子の「認識のズレ」。大切なのは「ゴールを設定しない対話」

8050問題イメージ

mits / PIXTA(ピクスタ)

 深刻化する8050問題。家族や周囲、そして社会はどう対処すべきか。引きこもり問題を20年以上にわたって取材を続けてきたジャーナリストの池上正樹氏と、多数の引きこもり患者の診察を行ってきた精神科医の春日武彦氏に、引きこもり中年問題の課題と対処法を論じてもらった。

「曖昧な定義」は危険

春日:まず僕が懸念するのは、現在「引きこもり」の定義が非常に曖昧な点です。かつての引きこもりといえば思春期の挫折が長期化、または統合失調症などに罹患しているケースでした。でも、現在話題になってる引きこもり中年は、むしろセルフネグレクトであり、文脈が違います。原因や対処法も異なるのに、一括りに「引きこもり」と認識するのは危険だなと思います。

春日武彦氏

池上:おっしゃる通りです。引きこもり中年は、不登校の延長でなく会社や仕事の危機から起こるケースが多い。非正規雇用による将来への閉塞感や、ハラスメントなどの過酷な労働環境から自分を守るために、引きこもらざるを得なくなる人も増えています。本質は安心して相談できる場や居場所づくりの問題なのに、行政は就労支援ばかりで、適切に対処できていないことが、8050問題の元凶だと思います。

欠けている家族間のコミュニケーション

春日:引きこもり本人のケア以上に、家族のケアももっと必要なんですけどね。「川崎殺傷事件」と「元農水事務次官事件」以降、当事者の家庭で「我が家もこうなるのではないか」と不安を抱く人が増えていると思います。 池上:私のところにも相談がかなり来ていて、親だけでなく子の側も「自分も親に殺されるかもしれない」と、怯えていますね。 春日:両事件で共通するのは、家族間でコミュニケーションが取れていないこと。交流があれば支援できたこともあるはずです。 池上:「元農水事務次官事件」にしても、会話ができていれば、「事件を起こすのでは」という強迫観念に囚われて、息子を刺すことにはならなかったんじゃないかと。「川崎殺傷事件」では、行政の助言で叔父夫婦が、加害男性に手紙を送っています。手紙の内容はわかりませんが、仮に「引きこもりをやめて」などと書いたなら、相手を追い詰めるトリガーになってしまった可能性があります。 春日:手紙という手段自体は悪くないですが、否定的なことを書くのは逆効果ですよね。
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ゴールを設定せずに子供の話を聞いてあげてほしい
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