8050問題を巡る、社会・親子の「認識のズレ」。大切なのは「ゴールを設定しない対話」

ゴールを設定せずに子供の話を聞いてあげてほしい

池上正樹氏

池上:まず子供の話をよく聞いてあげてほしいです。親側はよく「ちゃんと聞いている」と言うんですが、「外に出て働くこと」をゴールに設定して話してしまっていたら、子供は「何を言っても無駄だ」と諦めます。結果、家は安住の場ではないと思い、コミュニケーションの断絶や家庭内暴力につながりかねません。あとは否定せず、褒めることも大事です。「元事務次官事件」の息子のネットゲームにしても評価するべきでした。強みになる可能性があって、実際、開発中のゲームのデバッグ(実際にプレイしてバグを探すこと)の人材を求めている大手企業もありますからね。

病院に行くことで手当を受け取れるようになることも

春日:働いて自立してくれるのがベストでも、長期間の引きこもりから一気にそこまでいくのは困難ですからね。生活費などの経済的な問題については、セーフティネットとして障害者年金や生活保護など公的機関に頼りながら、段階的に就労する手段もあります。その受給資格を得るためにも、本人抜きの家族だけでもいいから早めに病院に行き、医師に相談してほしいです。 池上:あとは、公的機関の相談窓口や、家族会に行くのも手です。実例でも「名士の親が、子どもの引きこもりを隠して孤立し、悪化する」というケースが多いですが、場に行けば、いろんな当事者家族に出会えます。意外と地元の名士のご家族も多いので安心できるはず。「うちだけが変なのではないか」と思い詰めず、ぜひ積極的に外部に相談してほしいですね。 【春日武彦氏】 精神科医、作家。都立中部総合精神保健福祉センター、都立松沢病院部長、墨東病院精神科部長などを経て、成仁病院院長を務める。近著に『猫と偶然』(作品社) 【池上正樹氏】 ジャーナリスト、日本文藝家協会会員。KHJ全国ひきこもり家族会連合会事業委員としても活動する。近著に『ルポ ひきこもり未満』(集英社新書)などがある ― 引きこもり中年の衝撃 ―
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