好きなことを仕事にできるのか? インバウンドのサーフィン体験サポートで生きる男

サーフィン以外の付加価値もつけることで単価が上がっても人が来る

 普段、場所はどこでやっているのか? 「最初は御宿でやっていました。しかし、“何? ガイジン? 民泊でもやってるの?”みたいな感じで邪険にされたり、物件もあまりサーフィンに適したものがなかったので、二年で去ろうと最初から決めていました。」  せっかく内需拡大に貢献してあげているのに、もったいない話である。 「僕らのグループって、経済効果が高くて、ヘンな人が来ないんですよ。それで東京で出回ることのないおいしい魚、東京なら一皿三千円くらいしそうなのが1800円くらいで食べられる店なんかに連れて行くと、サーフィンせずにビーチで寝ているだけの人も満足してくれます。そういう付加価値をつけていくと、単価をあげても人が来てくれるんですよ」  山口はどのような基準でこの値段を決めているのか。 「この値段って、実は相対的なものなんですよ。電車やレンタカーで海に来て、近くのショップで道具やシャワーを丸一日借りるとすれば大体一万~一万五千円くらいになります。だから、それより少しお得な価格にしよう、ということですね」

テクノロジーとコミュニケーションで「ドタキャン」を防止

 こういう事業で避けて通れないのが「ドタキャン」問題である。山口はどのようにしてドタキャン、とりっぱぐれを防いでいるのか。 「僕の場合は、Peatixというアプリを利用して、先払いしてもらっています。それから何度となくメッセージのやりとりをしますから、そこで関係ができあがってドタキャンしにくくなるという側面は大きいと思います。いろんな国の人の英語や言い回しの癖などを読み取りながらコミュニケーションを取るのは結構大変なんですけどね」  昔ものの本で読んだが、ユダヤ教の経典「タルムード」に次のような一節があるという。 「商人たるもの、いつでも次の言葉を言えるように練習しておかなければならない。“私はあなたを信用しております。よって、全額前払いでお願いします”」  現役在宅民泊ホストとして断言するが、日本は「おもてなし後進国」である。大部分の飲食店は「英語のメニューを用意すること」がおもてなしと勘違いしている。そうではなく、最低限ベジタリアン・ハラル(イスラム教徒向け)・コーシャ(ユダヤ教徒向け)・グルテンフリーくらいは用意しておかないと話にならない。  ビル・クリントンは心臓手術を受けて以来医師の指示に従いグルテンフリーの食事を義務付けられているのだが、もし来年来日する場合はどこで何を食べればいいのか?あるいは牛肉を食べないインド人はどうすればいいのか?筆者宅に滞在したインド人は常に自炊していた。在宅民泊で自炊できないと、恐ろしくて到底日本では生活できないのだ。山口も同じ見解だった。 「昔は、マクロビをやってくれるお店があったのでまだよかったのですが、そこが店を閉じてしまいましてね。その後定食屋などへ連れて行くようになったのですが、“ベジタリアンで”とあれだけくどく強調していたのに、味噌汁の中に魚が入っていたりとか、出汁はつかってますか?と聞かないと教えてくれないとか、しょっちゅうですよ」  ここまでで一通り山口のビジネスモデルを紹介したが、次回はそんな彼の原動力とは何か、背後にどのような計算と戦略が秘められているのか、そのあたりを掘り下げていく予定である。 <取材・文/タカ大丸>
 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
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