しかし、見張り役がR・Tさんの存在に気づき動向を探ってきます。対象人物は保安員ではなく客と判断したらしく、仲間と犯行(リュックに窃取)を続行。
保安員が万引き犯の動向に目が効くように、プロの万引き犯(窃盗団)も保安員の気配に敏感なのだそうです(※4)。しかし、このとき万引き犯らは最終的には犯行を断念します。
※4 R・Tさんによれば、万引き犯は保安員の存在に敏感であり保安員の行動や特徴を落とし込んでいることは事実であり、この時もR・Tさんが売場から姿を消すまでは監視が続いたとのことです。
「ジャージコーナーにリュックを隠した後、万引き犯らは二人で店内を回り、保安員がいるかどうかの最終チェックの段階のようでした。そのとき、たまたま制服の警察官が店舗パトロールに来たため見張り役が危険と考えて犯行の中止を判断しました。アマチュアはこの判断が遅く、表情、特に目を見開く動きが現れ、なんとか持っていこうと焦り無理をしますが、プロは引き際があっさりしており、すんなりと諦めます。」
今回もアマチュアの万引き実行犯の方は無理をしようと焦り、粘りますが、プロの見張り役はあっさりと諦める選択をしたとのことです。
外国人万引き犯はなぜ万引き犯になったのか?―加害者側の論理
ところで、こうした外国人万引き犯のプロフィールはどのようなものなのでしょうか。R・Tさんは説明します。
「もちろん全ての外国人万引き犯に当てはまるわけではないのですが、就労ビザや留学生として来日したものの思うようにお金を稼げず、渡航のためにした借金や母国への仕送りに苦労しているという背景があるようです」
そして某ルートを通じてプロの窃盗団にスカウトされ、やむを得ず、窃盗団のメンバーになってしまうということがあるそうです。こうした「やむを得ない」万引き犯らは、一度に多額の商品を万引きし、万引きが成功するか否かは、日本人に比べて、徹底的で命がけ度合いが高く、ゆえに動揺が表情や動作に現れやすくなるのではないかとR・Tさんは解釈します。
この万引きに対する命がけ度ですが、言い換えるならば、真剣度、万引きの成否により得るものと失うものが大きい状況ですが、一見すると、こうした状況の方が慎重に万引きを実行するので、怪しい動きが非言語に出ないようにも注意を払うのではないかと思われる方もいるかも知れません。
しかし、こうした状況の方こそ、自身の意に反して非言語から真実が漏洩してしまうことは、様々な研究からわかっており、R・Tさんの解釈は科学研究の側面から見ても至極納得させられます。
さて、微表情の実務世界―万引きGメン編は次回で最終回となります。最終回の次回は、AIと万引きについてR・Tさんの見解をご紹介いたします。顔認証や動作を読み取るAIカメラが、万引き犯を検知する時代になりつつある今日、AIの問題と人間の役割とはどんなものでしょうか。ご期待ください。
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。