道行く先で「なんだあれは」と口にしてしまうような怪しいオーラを放つ場所に出くわしたことはないだろうか。それに恐怖を覚えるか、それとも興味を覚えるかでいえば、私は後者である。
群馬県甘楽郡(かんらぐん)には、通称「アダルト保育園」と呼ばれる知る人ぞ知る場所がある。のどかな田舎の風景に、突然奇抜なビジュアルが目に飛び込んでくるのがそれだ。看板のペンキ文字とちりばめられた装飾品の情報量で、頭が混乱してくる。
敷地は公園くらいの広さがあり、薄汚れた家電や骨董品などで作られた作品があった。管理人らしき人はおらず、草木をゆらす静かな風の音が謎オブジェの存在感を際立たせる。
このような場所はいわゆる珍スポットと呼ばれているが、近年、ここにあるような創作物がアートとして注目される一面もある。主流から外れた独自の芸術活動は、アウトサイダー・アートと呼ばれ、ここアダルト保育園はアウトサイダー・キュレーターである櫛野展正(くしののぶまさ)氏にも紹介されている。せっかくなのでこのアダルト保育園を作ったアウトサイダー・アーティストに会ってみたい。
はす向かいにあった同じような装飾の民家に、その人はいた。家主の中條狭槌さん(79歳)だ。このアダルト保育園を一人でもくもくと作っているらしい。ハツラツと話す姿からはもうすぐ傘寿という年齢を感じさせない。
こんなエキセントリックなものを作っているもんだから、どんな人かと少々身構えていたが、商店街にいそうな気のいいおじいさんといった印象だ。
この場所は何なのか尋ねると「地域の集会場として使ってたんだよ」と教えてくれた。15年ほど前に町の集会場が使えなくなってしまい、地域の仲間ために中條さんがガレージを改良して居場所を作ったそうだ。
「前は敷地のすぐそこに自販機があってね。飲み物を買ってガレージの中で近所の仲間と『若い女抱きたいな~』『でも俺のモノがだめだな~』なんて談笑してたわけ」
そのうち仲間の土建業者が解体で出た不用品を持ってくるようになり、それを飾っていると5年ほど前から現在のようなアート空間が出来上がった。廃品アートには、解体した保育園の遊具を利用したものもあるため「アダルト保育園」と名付けたらしい。
「仕事をしてたときは金はあっても時間がなかった。でも引退しちゃうと時間ができても金はかけられない。だから廃品で作るアートは都合がよかったんだ」
しかし、つい最近茶飲み仲間も解散してしまい、現在は集会場というよりは自由に廃品アートを鑑賞できる場として開放しているようだ。アダルト保育園は、意外にも地域の人と持ちつ持たれつの関係で生まれた産物だった。