永田町に緊張感を取り戻すための、弱小野党最後の秘策とは!?

野党執行部は候補者選定を放棄せよ

 私は、日本でも予備選挙を導入すべきだと考えている。予備選挙とは本選挙に臨む候補者を選ぶ選挙だ。7月の参議院選挙での一人区では野党が統一候補を出して、それなりの成果をあげた。しかし、野党がせっかく統一候補を出すのならそれは野党幹部や都道府県党本部の話し合いだけで決めるのではなく、勝てる候補を知っている有権者に託してみた方がいい。  野党統一候補として選挙に出たい人を公募。もちろん、各政党の都道府県党本部の推薦があっても労働組合の代表が出てもいい。自由に手を上げてもらい票の掘り起こしをしてもらう。自由闊達に討論会で直接議論を戦わせてもらう。それは、今の短い選挙期間中の名前の連呼やつまらないテレビの政見放送とも違う。憲法や外交防衛問題から、子育て、教育、地域の活性化など、いろんな問題について細かく議論を戦わせてもらう。そういうプロセスの中でじっくり有権者に向き合ってもらい、候補者の考えを伝え人柄もわかってもらうのだ。  候補者は自らの思うところ、考えを伝えるようになる。今のような党本部の作った公約、方針を丸暗記してコピペな演説ばかりをしていては、すぐにその政治家としての資質のなさが露わになる。いや有権者の支持を集めない。  自然と候補者になりたい人は、自らの言葉で自らの考えを述べるようになっていく。有権者を向いて語りかけるようになる。有権者の心と知性に響く人でないと候補者になれないからだ。  もしも、どの候補も過半数の支持を集められなければ、二人で決選投票も行なえばいい。そうして候補者に選出する。そんな予備選挙制度をまずは現職候補のいない選挙区で導入したらどうだろう?

予備選挙制度は政治家の行動規範を変え政治を活性化させる

 こうした新しい政治の動きはメディアも取り上げるはずだ。それは現職に比して知名度は低く、実績の乏しい新人の野党候補だとしても、予備選挙の中で考えや弁舌は磨かれ知名度は上がり、草の根的な応援体制も出来上がっていくだろう。公明正大なプロセスの中で生まれた候補なら無党派を含めた多くの有権者が自らの候補として応援するからだ。こうして選挙が身近になり抜群に面白くなる。選挙運動に参加し選挙資金を寄付する個人ももっと出てくるだろう。  7月の参議院選挙で山本太郎が率いるれいわ新選組は短期間のうちに4億円もの寄付を集めた。それも大企業からの献金ではない。毎日の生活を切り詰めている庶民が1000円、2000円と寄付したのだ。日本人も議会に送り出したい候補者がいれば財布を開くのだ。  予備選挙で大いに盛り上がった中で有権者から選ばれた候補なら、現職議員にも充分対抗できるはずだ。こうして生まれた議員は党本部ばかりを見て政治活動をしない。地元有権者から次の選挙でも選んでもらうためにどう行動すればいいか常に考えながら動くようになるだろう。  アメリカの選挙はいつも盛り上がる。同じ小選挙区制度なのに日本と大きな差がある。そこに絶望感は少ない。それは予備選挙で選ばれた自分たちの候補者だからだ。大統領選挙でさえ、バーニー・サンダースやドナルド・トランプといった、党本部から考えると困り者の候補者が出てきて有権者の支持を集めてついには大統領になったり、台風の目になったりする。また、トランプが共和党の大統領になっても、上下両院の共和党議員がトランプばかりに気を使っているわけでもない。有権者の意向ファーストで充分意識する。それは、次の選挙でも支持を取り付け当選したいからだ。  日本の選挙は有権者が当選させたい、出て欲しい人が候補者になっていないことが多い。だから、投票率が異様に低いのだ。仕方なく消去法やそれに近い気持ちでばかり投票させられる。そんな選挙に行きたいと思わない人が多いのは当然だ。与党の支持者なら自民や公明の公認だからと入れるし、野党支持者は与党の候補じゃないからと仕方なく入れる。投票所の前の選挙ポスターで初めて名前と顔を知った。そんな候補者に投票する選挙に興味が持てないのは当たり前だ。  それが、予備選挙によって候補者選出の過程から関わるとなると有権者の選挙に対する姿勢や投票動機が変わる。自分が選出した候補者だからだ。当選させたいと回りにも働きかけるし、本選挙のボランティア活動に参加する人も出てくるだろう。  今でも組織を超えた支持母体、勝手連的な動きを得た候補が概して強い。有権者が当選させたい候補者だからだ。それが、予備選挙を行えば、常が党が当選させたい人ではなく有権者が当選させたい人が候補になる。強いのは当たり前だ。予備選挙で選出された候補者は強いとなると、与野党含めて多くの選挙で予備選挙を行うようになるだろう。  こうして生まれた議員は独立性が高くなる。党議拘束で縛ることも難しくなる。各議員は単に党本部の方針に従って法案の採決に参加するマシーンでなくなる。特に重要法案は与党であっても反対したり、野党であっても賛成したりする。有権者が見ているからだ。法案を通すために、与野党とも多数派工作と少しでも支持を集められる法案にするべく努力するだろう。こうして政治に活力が出てくるのだ。  日本の社会の閉塞感を打ち破り若者が未来に希望を持てるようにするためにも政治に活力を生まなくてなならない。そのためには予備選挙を行うべきだ。代議制民主主義の柱である、有権者の代表を選出するためには、候補者そのものを有権者主導で選ぶべきなのである。  それが活力ある社会をうみ、日本を低成長の呪縛からも解くきっかけにもなると思うのだ。 ◆佐藤治彦の[エコノスコープ]令和経済透視鏡
さとうはるひこ●経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『年収300万~700万円 普通の人がケチらず貯まるお金の話』(扶桑社新書)、『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』 (扶桑社文庫・扶桑社新書)、『しあわせとお金の距離について』(晶文社)『お金が増える不思議なお金の話ーケチらないで暮らすと、なぜか豊かになる20のこと』(方丈社)『日経新聞を「早読み」する技術』 (PHPビジネス新書)『使い捨て店長』(洋泉社新書)
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