終戦記念日、コリアンタウンから“戦争を見つめる”

71歳、警備団の責任者が語るコリアンタウンの変化

 次に大久保の中心地にある西大久保公園へと向かうため、大久保通りから南下する。  西大久保公園には、チーズドッグを食べる若い日本人の女性たちや欧米からの観光客がいた。  辺りを見回してみると、警備服を着た一団が休んでいることに気が付く。この日は混雑防止のため、警備員が多数配置されていたのだ。  警備団の責任者をしている71歳の男性に話を聞くことが出来た。この男性は元刑事であり、新宿区から管理業務を委託されているとのこと。 「日韓関係が緊張する中での終戦記念日。なにかが起きるんじゃないかと気にしていた。けど、警備していても戦争のことを話題にする人すら見なかったよ。  コリアンタウンと言うけど、この町の雰囲気はだいぶ変わったね。韓流ブームってやつ以降は、若い日本人の女の子がよく歩いているよ」  昔から大久保には、古い安アパートが多く残っていたためアジアなどの留学生が多かった。実はコリアンタウンとしての町の歴史は、意外と浅く、20年ほどしかない。  2003年から始まった歌舞伎町浄化作戦。これによって、在留資格に触れるような商売をしていた歌舞伎町のコリアンたちが大久保に移り住み、コリアンタウンが形成されていったのだ。 「仕事柄、韓国人で作られた団体と仕事をすることもよくあるけど、歴史や政治の話は誰もしないね。日韓関係なんか関係ないよ。仕事だからね」  日韓の政治的緊張が高まる度に、経済や民間交流への影響が懸念される。しかし、その多くは日韓政府の対応によってもたらされているもの。  両国の関係の変化自体は今を生きる在日コリアンの行動とは関係がないのかもしれない。

50代の在日韓国人が話す、”韓国人にとっての8月15日” 見えてきた日本人の無関心

 「980円になります。カムサハムニダ~」と話すのは、西大久保公園の付近にある韓国大衆酒場を切り盛りする50歳の在日コリアン男性。今日の日をどう思いますかと聞いてみると意外な答えが返ってくる。 「日本が終戦記念日ということは、日本のテレビを通して知っているよ。違和感は全然ないかな。でも一方で韓国は独立記念日。韓国は毎年この日に色んな事をして、もう一回歴史を振り返るんだ」  日本とは大違いの状況。我々は15日に深く歴史を振り返ったことがあったのだろうか。政治的無関心はよく聞く言葉だが、”戦争に対する無関心”とは言わない。  選挙前になるとインフルエンサーが「政治に無関心の若者、まじでヤバいよ?」とSNSで煽る時代。なぜ彼らは、終戦記念日になにも言わないのだろうか。政治への無関心に警鐘を鳴らす行為も形骸化しつつあるのではと感じさせる。  男性店員は話し続けた。 「若者は日韓関係なんて気にしてないと感じるなあ。年を取ったからこそ、敏感になるものがある。でも慰安婦問題に関しては、当時気にならなかったと言えば嘘になる。和解して仲良くやればいいのに」  慰安婦問題に関して言及し始めたとき、そこの部分だけ強い口調となった男性店員。関心を持っている人からすれば、怒るのも仕方ない面も感じる。あいちトリエンナーレでは、慰安婦像が展示され批判が飛びあった。歴史修正主義に対するカウンターとなると考えたが、その言論は弾圧された。議論を重ね、真実を探し求める最適な機会だったはずだ。 「仲良くすればいいのにね。こうやって日本人の方かご飯をたべにきてくれるのに」  一部の人がヘイトを繰り広げる中、若者を中心に韓国文化に対する交流の幅は広がり続けている。  韓国文化に親しみを持つ若者。立ち位置が見えないが、良くも悪くも多様性に溢れている世代なのかもしれない。 【取材/板垣聡旨・茂木響平】 【取材協力/沖秀都】
ジャーナリスト。ミレニアル世代の社会問題に興味がある。ネットメディアを中心に、記事の寄稿・取材協力を行っている。
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