「建造物侵入罪」濫用で狭められる報道の自由

事実を報道させないための立入禁止通告

 施設管理者の意思に反して立ち入れば建造物侵入罪になるというのが、建造物侵入罪の要件だが、そもそも幸福の科学が私に通告した立入禁止通告は、彼らが気に食わない記事を私が書いたことが理由だ。私には、何かを盗んだり壊したり活動を妨害するなどした前科があるわけでもない。  立入禁止の原因となった『週刊新潮』でのルポは、幸福の科学学園が1億円の損害賠償を求めて民事訴訟を提起したが、週刊新潮と私の側の勝訴が2016年に確定した。週刊誌記事にしては珍しくと言ったら失礼かもしれないが、判決は、記事の内容について問題を指摘する部分が全くない、文字通りの完全勝訴だった。  つまり幸福の科学は、「正しい記事」を書いた報復として、私を立入禁止にしたことになる。  宗教法人は公益法人である。しかも幸福の科学は政治活動も行う公益法人だ。それが、気に食わない「正しい記事」への報復として特定のジャーナリストだけを一般公開施設から締め出し、立ち入ったら犯罪だという。これでは、取材の自由も報道の自由も国民の知る権利も全てないがしろになってしまう。  私が立ち入った初転法輪記念館は、教組・大川隆法総裁が幸福の科学設立後初めて座談会を行った場所で、いまも当時の様子が再現されている。当時は、ステージ上に座談会のタイトルの幕が掲出されるだけの素朴な光景だった。しかし現在は、当時存在しなかったはずの法輪や「RO」(大川総裁のイニシャル)のマークで飾り付けられ、歴史的事実よりも個人崇拝色が強いきらびやかさが重視されていた。  HSU祭では、大東亜戦争は正しかったとして、韓国人は日本に感謝すべきであるなどとする「愛国展示」などが行われていた。今年、大学としての設置認可を再申請する予定のHSUだが、学校での政治教育や学校による政治活動は教育基本法で禁じられている。  こうした実態を知り伝えることができるのは、内部を取材するからだ。これが犯罪とされてしまえば、一般公開されている場所の実態すら報道することができなくなる。

前例のない「報道の自由と建造物侵入罪」の争い

 すでに立件されている初転法輪記念館の事件については、紀藤正樹弁護士を弁護団調として8人もの弁護団や多くの支援者がついてくれて、私の弁護や支援にあたってくれている。まだ公判前整理手続が続いている段階で公判開始の見通しも立っていないことから、記事として書けないことが多いが、無罪を主張することになりそうだ。  弁護団の調べによると、建造物侵入罪はこれまで、意思に反して立ち入ったという形式論で扱われてきた前例しかなく、取材・報道の自由との兼ね合いが争われたケースが日本にはないという。私の今回の裁判が初めてのケースだというのだ。  ジャーナリストが何かしらの事件や問題の現場に立ち入って揉める。ほかにも多くの事例があってもおかしくはなさそうに思える。実際、ほかにも事例はある。しかしそれらのケースでは、起訴されてもジャーナリスト側が略式起訴を受け入れ、裁判で争わずに罰金を払って終わらせてしまっている。罪を認めて罰金を払い、裁判を回避してきたのだ。  私の場合は、これで処罰されるようでは、この先、幸福の科学に限らずほかのカルトへの取材も思うようにできなくなることから、検察官から略式起訴を打診された際に「裁判所にしっかり判断してもらいたい」として拒否した。そのため、取材・報道の自由との兼ね合いを争う日本初の裁判という運びとなった。
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建造物侵入罪濫用のみならず虚偽告訴の問題も
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