参院選の秋田・新潟選挙区で安倍首相が“動く減票マシーン”と化した理由

安倍首相の「イージス・アショア配備は必要」発言が寺田氏の追い風に

寺田静氏

秋田選挙区で勝利した寺田静氏(右から3人目)。右から4人目が選対本部長を務めた石田寛県議

 秋田選挙区で「アリが巨象を倒した」と呼ばれた勝因について、寺田氏は当確直後の会見でこう語った。 「『何事も力でねじ伏せていくようなやり方はおかしい』という県民の発露があったのだと思っています」  2か月間をかけて寺田氏を説得して自ら選対本部長を務めた石田寛県議(社民党県連代表)はこう話す。 「安倍首相と菅官房長官が2回も秋田入りしたことで、イージス・アショアへの関心が高まり、秋田配備への賛否を問う県民投票(住民投票)のようになったことが追い風になりました。  しかも安倍首相は『秋田へのイージス・アショア配備は必要』と断言。この国策ゴリ押しの姿勢が、『私の息子を含め秋田の子供たちにイージス・アショアのある未来を引き継がせたくない』と訴えた静さんへの追い風になった。それと、(寺田氏の)生い立ちの話も共感を呼びました」  安倍首相と菅官房長官がそろって秋田入りした選挙戦最終日の20日、寺田氏は秋田駅近くでこう訴えた。 「私もかつて、さまざまな困難の中にありました。幼い頃の経済的苦労、不登校、高校中退。30代半ばまでかかった奨学金の返済、植物状態を経て1年3か月の闘病を経て亡くなった弟の介護と看取り。  こうした困難の中にあって、自分自身も声を上げられない状態がいかに辛いか苦しいかを体験してきました。その困難の中にあって今、声なき声を私に届けてくださったたくさんの皆さんに心から感謝を申し上げたいと思います。そのことだけで私は立候補して良かったと思うことができます。  5歳の子供、あと数年で親よりも友達の方が良くなっていくでしょう。そのような時にどうしてこのようなことをしなければいけないのか。今でも躊躇がないわけではありません。  でも、どんどん地域が苦しくなる。農家も苦しくなる。東京の一極集中が進み、地方は疲弊をするばかり。そして今、イージス・アショアが置かれようとしている。  このような状態の中、自分の子供だけではなくて秋田の子供たちみんなのために、今、声を上げなくては絶対に後悔をする時が来る。その思いだけで今まで4か月以上、歩んで参りました。(「立ってくれてありがとう!」の声)」

農家の戸別所得補償制度復活も支持を受けた

当選を喜ぶ寺田氏

5歳の息子を抱え、当選を喜ぶ寺田氏

「首相演説が追い風になった」との勝因分析をした石田氏は、こう続けた。 「安倍首相の演説はアベノミクス自画自賛ばかりで、秋田県民の心にはほとんど届かなかった。『安倍政権下で農産物輸出が増えた』と成果をアピールしていましたが、農家からは『民主党政権時代の戸別所得補償制度を復活してほしい。あの制度は良かった』という声が出ていた。そこで静さんは戸別所得補償制度復活を訴え、これも追い風になった」  安倍首相が“動く減票マシーン”と化した原因が見えてきた。安倍首相の演説は、アベノミクス自画自賛と野党批判が二本柱。株高などの恩恵を受ける、都市部や富裕層を除いた有権者の心には、ほとんど届かなかったのではないかということだ。  しかもイージス・アショア配備の必要性を秋田で強調したことで、米国製兵器の爆買いぶりと“トランプ大統領にNOと言えない外交”も可視化されることになった。参院選が終わった今、トランプ大統領との農産物自由化に関する密約の内容が明らかになる可能性も十分にある。アピール材料にこと欠く安倍政権は、ネタ切れのオワコン芸人状態といえるのだ。 <文・写真/横田一>
ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
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