ごく軽微なストレスを緩和するには、笑顔は効果てきめん
この笑顔のストレス低減効果は、興味深いことに自分で自分の笑顔を認識していようがしていまいが、生じるということです。
冒頭のテコンドーのハードな練習や叱られるというストレス状況において、笑顔でいる人々は、ほとんどの場合、自分の笑顔を自覚しておらず、自然に笑顔になっていると思われます。ストレスから自分の心と身体を守るメカニズムを自然に習得している人と言えるでしょう(とはいえ、周りの人に誤解を与える場合も多分にあるので自分の笑顔に自覚的になった方がよいでしょう)。
ただ残念ながら、笑顔をつくる/笑顔になることで、ストレスというネガティブ感情をポジティブ感情に転化するということはないようです。
また笑顔をストレスの癒しとして利用するには、「ちょっとした」ストレスというところがポイントとなります。ちょっと疲れたな、ちょっと嫌だな、ちょっとイラッとするな、そんなとき、口角を引き上げるとストレスが緩和されます。
注射の痛みですら、笑顔をつくることで痛みが緩和されることもわかっています(ぜひお子さまがいらっしゃる方はお試しあれ)。特に、次から次へと新しいお客さんに対応する必要のある接客係の方々や次から次へと部下から相談を受ける経営者の方々など、ちょっとしたネガティブ感情を人毎にリセットしなくてはならない方々にとっては、笑顔は心のサプリとなるでしょう。
しかし、「ちょっとした」ストレスどころではない場合や長期にわたって本当の感情を抑制し、愛想笑いで自他ともに誤魔化したりしていると、バーンアウトを起こしてしまいます。
笑顔はあくまでもサプリ。笑顔のサプリが効かない、自分の本当の感情が全然出せない、そうした場所に居続けていては心が疲弊してしまいます。そんなときは、そうした場所からおさらばするか、日々心身の栄養を採り、ときに笑顔のサプリで十分な心身を養成しましょう。
参考文献
Kraft TL, Pressman SD. (2012) Grin and bear it: the influence of manipulated facial expression on the stress response. Psychol Sci.;23(11):1372-8. doi: 10.1177/0956797612445312. Epub 2012 Sep 24
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。