なぜ探査機「はやぶさ2」は、小惑星への2回目の着地に挑んだのか? その裏にあった大きな意義とリスク、そして葛藤

「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに着陸する想像図

「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに着陸する想像図 (C) JAXA

小惑星の内部の岩石を採取することにどのような意味があるのか

 ところで、そもそも「はやぶさ2」はなぜ、すでに1回着地しているにもかかわらず、大きなリスクを取ってまで、今回の2回目の着地に挑んだのだろうか。  1回目の着地で採取したのは、リュウグウの表面にある石や砂だった。もちろんそれにも大きな価値はある。だが、表面は太陽の光や熱、宇宙から飛んでくる放射線の影響で、状態が変化してしまっている。これを宇宙風化といい、地球の石が水や風で削られるのと同じような現象である。  しかし、小惑星の内部であれば、そうした風化の影響が少ないと考えられている。つまり、内部を掘り起こし、そこから飛び出した石や砂を採取できれば、まさに太陽系ができた当時の、新鮮な状態のものを手に入れることができる可能性がある。  今回の成功後、「はやぶさ2」の責任者を務める津田雄一プロジェクト・マネジャーが「太陽系の歴史のかけらを手に入れました」と声高々に宣言したが、それは比喩ではなく、まさに文字どおりの意味だったのである。  また、クレーターを生成した際、その内部には、表面より”黒い物質(反射率が低い物質)”があることがわかっており、リュウグウの表面と内部ではなんらかの物質の違いがあると考えられている。そのため、1回目の着地で採取した石や砂と比較することで、黒い物質は何なのか、なぜ違いが生じているのかなど、さまざまなことがわかると期待されている。 「はやぶさ2」がわざわざクレーターを作って内部を掘り起こし、探査機が壊れるかもしれない危険を冒してまで、2回目の着地を敢行したのには、こうした理由があった。
着地直後の画像

「はやぶさ2」が撮影した、小惑星リュウグウへの2回目の着地直後の画像。中央付近の周りより黒っぽくなっている部分が、着地した場所だという (C) JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研

「はやぶさ2」の今後

 困難なミッションを成し遂げた「はやぶさ2」だが、まだその旅路は終わらない。  まず今月以降には、「はやぶさ2」に搭載している小型の着陸機「MINERVA-II2(ミネルヴァII2)」という探査機を、リュウグウの表面に投下する予定となっている。「はやぶさ2」にはもともと4機の小型着陸機が搭載されており、そのうちJAXAが開発した「MINERVA-II1(2機で構成)」と、欧州が開発した「MASCOT」の3機はすでに昨年9~10月に投下され、着地や探査に成功している。  MINERVA-II2は、東北大学などの大学コンソーシアムが開発した探査機で、直径15cm、高さ14.5cm、質量877gの、手のひらに乗るくらいの小さな機体である。その内部には、小惑星表面で飛び跳ねて移動するための複数の機構や、カメラや温度計などを搭載している。  ただ、MINERVA-II2は打ち上げ前から、データを処理するためのコンピューターに不具合を抱えており、機体の状態を確認したり、カメラなどの機器を制御したりすることができないという。これまで電源の入れ直しなど、復旧に向けた作業が続けられているが、回復には至っていない。このため、当初予定していたミッションの実施は難しい状態だとしている。  それでも、ミッションの中身を変えるなどし、可能な範囲で成果を出すため検討が続いている。
小型着陸機MINERVA-II2

「はやぶさ2」に搭載されている小型着陸機MINERVA-II2(ミネルヴァII2) (C) JAXA

 その後「はやぶさ2」は、今年11~12月のどこかのタイミングでリュウグウを出発。2020年11月~12月に地球に到達し、採取した石や砂の入ったカプセルを地球に投下し、ミッションを終える予定となっている。  まさに「お家に帰るまでが遠足」。採取した石や砂が地球に届くのを心待ちにしつつ、これからの航海の無事を祈りたい。 【参考】 ・第2回タッチダウン画像速報 | トピックス | JAXA はやぶさ2プロジェクト第2回タッチダウン運用 | トピックス | JAXA はやぶさ2プロジェクト2019年7月9日 記者説明会資料(PDF)大学コンソーシアムが開発した小型表面探査ロボット(… | プレスリリース・研究成果 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-JAXA Hayabusa2 Project <文/鳥嶋真也>
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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