最左車線では沿道から伸びる街路樹や標識が「障害」に
今回、SNSや休憩中のトラックドライバーたちに「一般道の最左車線を走るトラックの事情」について話を聞いたところ、意見のほとんどが「最左車線の走行は避けたい」「走れない」とするものだった。
その理由を紹介しよう。
1.右折したい
他でもない。トラックだって右折することはある。しいて言えば、トラックはその車体の長さゆえに身軽に車線変更できず、移れる時に移ろうと、早い段階から右車線に入って走り続けることがある。
ちなみに、右折レーンで信号待ちしているトラックの中には、隣車線を走るクルマとの接触を避けるために、左サイドミラーを畳んでいるドライバーも少なくない。
2.左折車の存在
一般道の最左車線を走ると、左折したい前方のクルマが歩行者の横断を待つたびに詰まり、その都度ブレーキを踏まねばならない。
こうしたクルマの詰まりによるストレスは、無論一般車にも生じるのだが、これまで本シリーズでも解説してきた通り、トラックは頻繁にブレーキを踏むことで、シフトチェンジや速度回復時間だけでなく、クルマへの負担なども生じるため、乗用車以上に最左車線が走行しづらいのだ。
3.二輪車の存在
「自転車とトラックの相性の悪さ」は、
以前紹介した通りだ。トラックにとって自転車や原付などの二輪車は、死角にピンポイントで入り込む、大変恐ろしい存在である。
【参考記事】⇒
トラックドライバーにとって恐怖の存在。それは「自転車」である
特に交通ルールを知らない自転車が車道を走っていると、こちらが安全運転していても危険が拭えない。それに、側溝や道路のデコボコ、ゴミなどで突然ふらつかれると、命に関わる事故を起こしてしまう。当然「命が関わる」のは、二輪車側だ。
こうした危険回避に対する意見は、歩行者や原付、自転車利用者も同じで、「事故に巻き込まれる確率が減るため、我々もトラックが最左車線を避けてもらえると嬉しい」という声があった。
4.街路樹や標識の存在
最左車線には、こうした自転車たち以外にも大きな障害がある。沿道から伸びる街路樹や標識だ。
図体の大きいトラックにとってこれらは、接触の危険が大いにある障害物だ。
特に街路樹の枝は大敵。トラックは一見、頑丈そうだが、箱車(後ろが箱型のトラック)の荷台はアルミになっていたり塗装されていたりするため、すぐに傷が付く。
中でも「損害」が出るのが、「キャリアカー」だ。
キャリアカーは、何台ものクルマを載せて運ぶトラック。商品であるクルマを、むき出しのまま載せて走るあのトラックにとって、最左車線を走ることは、かなりのリスクがあるのだ。
5.通行帯が指定されている
一般車に乗っていると気付きにくいのだが、都心部の幹線道路など、カーブや人通りが多いところでは、交通標識によってトラックの走行車線が中央分離帯側(最右車線)に指定されていることがある。その理由は各道路によってまちまちだが、歩行者や道路沿いに立つ建物に対して、騒音や振動、排ガスによる影響を少しでも緩和させることが主たる目的だ。
無論、中には、
●一般道とはいえ左は走行車線、右は追い越し車線。指定通行帯がない限り、トラックでも左を走るべき
●社速で少しでも55km/hを超えたら会社から始末書を書かされるため、最左車線を走っている
●右側を走りたがるのは、社速等の縛りのないトラック。教育された会社の乗務員は左側を少々我慢して走っている
とするドライバーももちろん存在する。
とりわけ、牽引車である「トレーラー」は、引っ張っているコンテナが沿道の街路樹などに当たって傷がついても大きく気にすることはないし、超重量を引っ張る手前、発進から速度を上げるまでにトラック以上に時間と手間がかかり、周囲のクルマの流れを阻害する恐れがあるため、多少走りづらくとも、最左車線のほうが精神的には楽だとするドライバーが多い。
事故や接触のリスクを取るか、はたまたルールを取るか。
もちろん最左車線を走らねばならない前提はあるが、トラックには、こうした車種や載せている荷物などによって、同車線の走行を避けたい、走れない様々な事情や感覚の違いが発生することもあることを、是非知っておいてほしい。
<取材・文/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
@AikiHashimoto