「当事者性」によるインパクトで知名度の低さをカバー
さらに、何らかの社会問題の当事者であることは、2つの意味で重要性を持つ。ひとつはインパクト、つまり候補者として強い印象を与えること。一定の知名度はこれでカバーできるし、そのことによって後から知名度を上げる可能性も膨らむ。
もうひとつは、議員になった場合、特定の課題を国会に具体的に持ち込むことができるので、より変革を起こしやすいということだ。
知名度・インパクトは、通常の政党が最も重要視するものだ。日本の投票様式は「記名式」で、候補者の「名前」を書かねばならない。候補者側からすれば、有権者にまず伝える必要があるのは「自分の名前」ということになる。
投票者は、基本的に知らない人の名前は書かない。他の多くの国のように選挙期間が何か月もあれば、新人候補者もじっくりと運動できる。しかし、日本の場合は参院選で通常たった17日間しかない。
これでは、選挙区すら全部回ることも不可能だ。いわんや全国比例区をや、である。筆者も、自身の選挙で「この制度自体、新規参入者には無理がある」ということを痛感させられた。
選挙中、各候補者が名前ばかり連呼するのも、たった17日間の中で1票でも多く上積みをしようとすれば、まず名前を覚えてもらう作業に集中するほかないからだ。
しかし、「れいわ新選組」という政党名と、「あそこは何らかの当事者を候補者にしているよね」というイメージを有権者の頭の中で組み合わせる構図さえできれば、3の部分をカバーできる。そう考えたのではないだろうか。
資金が2億円以上集まり、より多くの候補者を比例区に回すことが可能に
以上が、れいわ新選組が選挙に打って出るのに必要な最低限の条件だった。ところが、資金が2億円以上集まり、そのさらに上の壁を目指すことができるようになった。
もし資金が1億円程度しか集まらなければ、供託金や選挙資金を抑えるため、選挙区に多くの人数を割くことになったかもしれない。その場合、選挙区での立候補は、自身の当選を狙うことと、その地域での比例区の票固めという二重の役割を担う。
これにはいい点と悪い点がそれぞれある。いい点は、選挙区内での比例区の得票数を上積みする効果が高まることだ。悪い点は、その候補は自分の選挙区以外での選挙運動ができなくなる、つまり比例の上積み効果は選挙区内にとどまってしまうということだ。
そこで定数6の、選挙区の中では当選確率が最も高いと考えられる東京にだけ選挙区候補を擁立した。そして、それ以外の9人はすべて比例区で全国を駆け回るという、最も広く選挙キャンペーンを展開できる(しかし、最もお金がかかる)パターンが可能になった。