男性は、2015年2月に長男が誕生したため、同年2月中旬から3月末までの1か月半と5月中旬から翌2016年6月中旬までの約1年間、育児休業を取得した。
厚労省は、母親の出産後8週間以内に父親が育休を取得した場合は、一度職場復帰しても、再度取得できるとしている。男性はこの仕組みを利用していた。
「女性は産後、心身の回復に時間が掛かると聞きました。産後うつになる人も少なくないと聞き、妻のことが心配でした。そのため出産直後に育休を取りました。一度は職場復帰したものの、“ワンオペ”での育児は負担が大きかったため、再度育休を取得しました」
男性は次男の誕生後、2018年3月から2019年4月まで2回目の育休を取得している。男性が2度に渡って約1年間の育休を取得したことに対し、“休みすぎでは”といった声も出ている。
「休みを取りすぎだと言われることもありますが、私たちには育休を取得する権利があります。制度を利用している人を批判していると、制度をどんどん使いづらくなってしまいます。
制度を使った人を批判するのではなく、誰もが制度を使えるような社会になればいいと思います。『誰かが休むと、同じ職場の人が穴埋めをしなければならなくなる』と言われることもありますが、誰かが休めるだけの人を配置するのが経営者の仕事ではないでしょうか」
「退職するように無言のプレッシャーを掛けられている気がした」
男性は、倉庫勤務から本社に戻った後、障がい者雇用に関する調べ物を業務として与えられた。その後、8か月ほど業務指示が一切なかったこともある。このときは「『退職しろ』と無言のプレッシャーを掛けられているような気がして、真綿で首を絞められているようだった」と話す。
その後は、介護について調査したり、就業規則を英訳する仕事を与えられた。男性は「きちんとした業務を与えてほしい」と訴えているが、これも調査や英訳の仕事を軽視しているわけではない。「僕が2回目の育休を取得している間、この仕事には誰も手を付けていませんでした。つまりやる必要のない仕事なのだと思います」
会社を辞めて転職すればいいのではないかという声も少なくない。しかし男性は、「泣き寝入りしたくありません。私がアシックスを提訴することで、男性が育休を取りにくい現状を変えたいと思っています」と話す。
日本の男性の育休取得率は、2018年度に6.16%だった。一方、労働政策研究・研修機構の
資料によると、ノルウェーでは90%、スウェーデンでは88.3%、ドイツでも27.8%となっている。
<取材・文/HBO取材班>