私たちは人種や移民に関する偏見をどう問い直せばよいのか

 児童精神科医で、子どもの孤立支援に取り組む小澤いぶきさんが立ち上げた「Reframe Lab(リフレームラボ)」。6月29日に都内で「無意識のバイアスをリフレームするには?」と題したイベントを開催した。  イベントには、評論家の荻上チキさんやコモンセンスの望月優大代表らが登壇。私たちが持っている人種や移民に関する「バイアス」をどう問い直すかが議論された。

移民とどう向き合えばいいのか

望月優大さん

 最初のセッションでは多摩美術大学の中村寛准教授やコモンセンス代表の望月優大氏、児童精神科医でありながら認定NPO法人PIECES代表を務める小澤いぶき氏が登壇した。  日本の移民事情についてのWebマガジン「ニッポン複雑紀行」を運営する望月氏は、日本社会が移民とどう向き合うかということを、真剣に考える局面に来ていると語った。 「一般的視点で見た意見として、移民問題と聞いた時に思い浮かべるものは、あくまでブラウン管を通して伝わる国際ニュースの1つと捉えられる。他方、多くの国では、移民政策を重要なものとして捉えている面を鑑みると、日本国内での移民に対する関心が今ひとつ高まっていないのではと感じている。取材を通して思ったのは、日本で暮らす外国人300万人を移民という言葉で括ってしまうと、彼ら彼女らのバックボーンを閉じ込めてしまい、狭い解釈でしか移民を捉えることができない」  移民、移住、故郷を離れる。これらの言葉の意味を考え、議論をする機会がないとフレームの枠に収まってしまい、深掘りしようとしなくなる。望月氏はこう説明した上で、自らが移民について伝える時も、社会的に考えられているステレオタイプによる思い込みや固定観念を抱かないように気を遣っているという。 「自分がメディアを通して発信する際は、悪い偏見のあるステレオタイプを増幅させたくないという思いを持っている。ファクトを調べ、当事者への取材を通して得た材料を取捨選択し、編集していく過程においては、世の中に蔓延する偏見に加担しないよう気をつけている。  記事を作るという関係から、パンチラインは欲しいがためにこう言ってほしいというのは理解できる。しかし、思い上がりを生まないように配慮し、ニュートラルな状態のまま発信していくのが大切だと思っている」

認知バイアスを逆手に取った銃の開発

 続いて行われたセッションでは、「無意識とバイアス」 をテーマにアーティストの長谷川愛氏(リモート参加)、評論家の荻上チキ氏、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)講師の山口真一氏らが議論した。  まず、アーティストとして活動する長谷川氏より、非武装で警察に殺された黒人のデータから着想した作品プロジェクトについて語った。 「アメリカでは、警察に殺された黒人の中で非武装にも関わらず殺された割合は33%に上っており、未だに黒人への偏見が根付いている。黒人は銃を持っているかもしれない、悪さをするのかもしれないというバイアスはなかなか払拭できないでいるのだと考えられる」  そこで、長谷川氏はテクノロジーを生かしてバイアスを逆手にとり、偏見に寄らない判断ができるような「Alt-Bias Gun」という作品プロジェクトを発表し、社会に提案・問題提議したという。 「撃たれやすいタイプの人間の顔のデータを分析し、AIによって機械学習させることで、人の認知バイアスを逆手に取って、銃の引き金を止めるといったもの。長年、黒人に対する培われてきたバイアスによって、銃殺しようとしていないかという問いを社会に訴えかけ、公平な社会であろうとすることをテーマにしている」  認知バイアスをAIといったテクノロジーの力で変えていく。このようなことは社会実装の中で本当に実現可能なことなのだろうか。
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荻上チキ氏がバイアスを取り除く方法を解説
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