荻上チキさん
荻上氏は評論家の立場から次のように語った。
「今後、世の中に確立されるアーキテクチャ自体にバイアスがかかってしまえば、ヘイトや差別を生む原因となる。しかし、社会心理学上で考えると、生きるためにバイアスは必要不可欠であると捉えられていて、一定のバイアスを持っていないとどう行動していいか分からない部分がある」
バイアスについて深掘りすると、人はバイアスを取ることに抵抗感を示すという。その上でカンファレンスのテーマであるフレーミングについて触れた。
「人はこの場ではこう振る舞うなどの社会的な定義づけを当てはめてフレーミングしていっている。日常的なメディアとの接触により学習していくため、例えば10年前はお笑い芸人などに影響を受けてきた子供が、現在はYouTuberやTikTokerの発言に影響を受けて言動や行動が変わってきている。バイアスを拭う方法論は色々と言われていることである
。バイアスを思考するためのワードやボキャブラリーのストックを増やし、社会バイアスを完全に拭うことはできないものの、軽減することまでは分かってきている」
メディアが発信する情報をどう捉えるかは、個人の思考やバックボーンが多様に関連することであり、社会通念上のフレームに沿って考えるのが一般的である。では、無意識のバイアスをリフレームするにはどう考えていけば良いのか。
計量経済学が専門でデータアルゴリズムに精通する山口氏は、「昨今のSNSの興隆はエコーチェンバーという同じ意見の人々の中で、集団極性化という現象が起こることにより、先鋭化した意見になる。SNSとりわけネット世論は、意見を持つ能動的な発信者によって極端な方向に走りやすいという傾向にある」とインターネットの言論空間の特徴について語った。
生まれた時から社会的バイアスに囲まれている中で育ってきたため、バイアスを取り除くのは難しいとしつつも、どう向き合って認知をしていくかという捉え方が重要なのではと説明した。
メディアがコミュニケーションの文脈をどう作っていくかが大切
また、能動的な人がSNSで積極的に意見を述べる一方で、受動的な人にはどう関連性を与えられるかについても、セッションで議題に上がった。
荻上氏は、「受動的な人にはどうバイアスを自覚してもらうかだと思う。それはネットでの言論がクラスタ化している事実はあるものの、何を議題にするかによって意見の仕方が変わってくるからである。人はオピオニンリーダーをジャンルごとに横断的に決め、言葉やアジェンダなどの情報を取り入れている。 論点として接触する機会が増えれば、どういう議題が世の中で上がっていて、こういう文脈で語れば良いのではというフレーミングをする。メディアが事実をもとにどうコミュニケーションの文脈を作っていくかがいつの時代も大事」と説明した。
感情接触や知識の蓄積だけではバイアスが減るわけではない。しかし、バイアスは今の状況を肯定する考え方だという。
セッションを通して語られた暴力やマイノリティへの偏見、差別、インターネットの言論空間など様々な事象には、バイアスが存在している。そのバイアス自体を取り除くのではなく、再定義すること。すなわち、既存の社会的フレームに収めるのではなく、見方を変えてリフレームすることが、これからの現代社会を生き抜くヒントになるのではないか。
<取材・文/古田島大介>
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。