ヤフーが開始し、日本でも拡大が予想される「信用スコア」。浮上する懸念とは?

中国が先駆けとなった「信用スコア」市場

 こうした信用スコアへの相次ぐ参入は、中国の信用スコアが大きく飛躍していることが背景になっている。特に中国の Alibaba による「芝麻信用(セサミクレジット/ジーマ信用)」の影響が大きい。  総務省の平成30年版「情報通信白書」には、中国の事例として、「信用のスコア化 芝麻信用」という項目がある(参照:芝麻信用の概要)。「芝麻信用」はアリババグループであり、2015年1月に中国人民銀行が個人信用スコアサービスの開業準備を認めた8社のうちの1社である。2015年が、現在の信用スコアの元年だと考えると、その歴史は意外に浅い。  中国でこうした信用スコアがサービス展開されるようになった背景には、政府主導で進められている政策「社会信用体系建设规划纲要(社会信用システム構築計画綱要)」が大きく関係している。2014年から2020年までの7ヵ年計画で、信用レベルを意識させることにより不正取引を減らし、健全な社会システムを築こうという取り組みだ(参照:MUFG Innovation Hub)。  個人信用スコアサービスで頭が飛び抜けた存在となっている「芝麻信用」は、信用度を350~950点の点数で示す。700以上だと信用極好となり最高ランクとなる。  点数化は5つの領域でおこなわれる。社会的地位・身分、年齢・学歴・職業などの「身分特質」、過去の支払い状況や資産などの「履行能力」、クレジット・取引履歴などの「信用歴史」、交友関係及び相手の身分、信用状況などの「人脈関係」、消費の特徴や振り込みなどの「行為偏好」から算出される。とはいえ「芝麻信用」の多くの情報は、Alibaba での経済活動に左右される。  この中国版信用スコアの、欧米版クレジットスコアとの違いは、元々の立脚点にある。中国では、クレジットカードの利用履歴が全く存在しない人が大多数を占めていた。そこで、そうした情報に頼らない信用スコアの算出が求められた(参照:DG Lab Haus)。  中国の政策、国民の状況といった国家的な背景があるために、現在日本で進んでいる信用スコアが、中国と同等のものになるとは考えにくい。市場の支配力の問題もあり、中国ほど強い影響力を持たないのではないかと思われる。中国のように「低ランクだと結婚できない」といった話が出てくる可能性は低そうだ。

浮上する信用スコアへの懸念

 前述のとおり、本家の中国と日本では、そもそもの事情が違う。そのため、信用スコアの意味するところは大きく違う。  ただ、個人の信用がスコア化されて、そのことにより受けられるサービスや価格などが変わると、起きるであろう問題も思い浮かぶ。信用スコアという枠組みが国民の大多数に広まり。2世代、3世代と続けば、格差が固定化される懸念が出る。  親の経済的な後ろ盾によって、初めから信用スコアが高い集団は、様々なサービスを安価で受けられ、面倒な手続きを飛ばして社会活動ができる。中国の信用スコアでは、病院の待ち時間が短縮され、ホテルの保証金が不要になる。また、国内国外の移動もスムーズにおこなえる。  逆に言うと、経済的に苦しい立場にある親の子供は、こうした恩恵を受けるのが難しくなる。その結果、高速道路を進む人間と、一般道を進む人間とに分けられて、大きな格差を生むことになる。一部の人にとって便利なシステムが、格差を助長して、差別を社会に作る危険性がある。  信用スコアという仕組みについて、日本でそこまでの影響力が出るとは現時点では考え難い。しかし本家である中国の動向は注視しておきたいところだ。 ◆シリーズ連載:ゲーム開発者が見たギークニュース <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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