ベトナム難民2世の通訳者が見た、外国人労働者を犯罪に追いやる技能実習制度の闇

犯罪の温床と化す技能実習制度

―― 検挙されたベトナム人は、どのような人たちですか。 グエン:私が支援すべき相手は、もうすでに犯罪を行ってしまった人たちであり、出会った時点で強制退去は確定しています。  私はこれまで2000件近くの案件を担当してきましたが、その中でも実習先で酷い目に遭い、借金を返すために法を犯さざるをえない状況に追い詰められてしまったケースが多いのは事実です。本来通訳は中立であるべきですが、「出来るだけ罪を軽くして少しでも早くベトナムに帰してやりたい」と被疑者に有利なように意訳することもあります。  ただその一方で、自ら悪の道に進んだ人間もいるわけです。そういう時は「本当に助ける価値があるのか」とやり切れない気持ちになることがあります。 ―― 特にやるせなかったことはありますか。 グエン:その、子供が絡んでくることがあるんですよ。ある若い夫婦の子供が難病にかかり、ベトナムでは治療費が稼げない。夫婦で相談した結果、子供を実家に預けて、二人揃って実習生として日本に出稼ぎにきた。受け入れ先がまっとうであれば何の問題もなかった。ところが、悪質な監理団体と企業にあたってしまって、劣悪な環境で低賃金労働を強いられた。このままでは治療費が稼げないと、やむをえず二人で実習先から失踪して不法就労をしたが、摘発されて強制退去させられたと。  彼らは「子供のために」という親心で判断をしていった。その結果、いつの間にか「犯罪者」になってしまい、治療費を稼ぐどころか借金が残ったまま帰国していかざるをえなかった。この夫婦が検挙された時、何とかしてあげたかったのですが、どうにもなりませんでした。 ―― 間違った制度の在り方が実習生たちを犯罪に追い込んでいます。 グエン:はっきり言うと、現在の技能実習制度は日本政府やベトナム政府、監理団体、企業などが寄ってたかって実習生をカモにして利益を上げるシステムになっています。この利権構造を維持するためには、その実態がバレてはならない。そのため、政府や管理団体、企業は実習生に伝えるべきことを伝えていません。  実際、実習生は驚くほど無知です。たとえば、実習生は実習先から失踪した時点でビザが失効するのですが、失踪者の大半はそのことを知りません。これほど基本的な知識すら与えられていないのです。  しかし、実習生はやがて自分が騙されたことに気づき、実習先から失踪して不法就労を行い、場合によっては犯罪に走ります。いま起きているのは、日本に対する実習生のしっぺ返しではないですか。  結局、現在の技能実習制度は日本・ベトナム両国の利権構造であると同時に、犯罪の温床にもなっているのです。日本政府は入管法を改正して技能実習制度に変更を加えましたが、これほど間違った制度は修正するのではなく廃止すべきです。  日本政府が外国人労働者を必要とするならば、現在の制度を全廃した上で、新たに一から公平な制度を作るべきだと思います。 (聞き手・構成 杉原悠人)
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2019年7月号

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