電気自動車(EV)の市場拡大が引き起こす、深刻な「鉱害輸出」

EVの市場拡大で、飛躍的に伸びるレアメタル・レアアースの需要

電気自動車 電気自動車(EV)の世界的な市場拡大に伴って、銅やコバルト・ニッケルなどのレアメタル(RM)とともにレアアース(REE)の需要は旺盛だ。IoTやAIなどの急速な“進歩”によって、さらに飛躍的に伸びることは明白となっている。  しかし、銅やレアメタルと同等あるいはそれ以上に、レアアースの採掘・精製に伴う環境汚染は激しい。しかし、人々は “Out of Sight, Out of Mind”になっているために「EVはエコカー」というイメージが定着している。  EVのモーターに使う高性能磁石をつくるためには、レアアースのネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、ディスプロジウム(Dy)、テルビウム(Tb)などのレアアース・メタル(REM)を必要とする。

レアメタル生産による深刻な環境汚染

 しかし、不都合なことにレアアースの世界市場は、86%(2017年)をいまだ中国が寡占支配している(2011年時点では97%)。その中国のレアアース資源の75%を占めるのが「北方鉱」と呼ばれる内モンゴル自治区の白雲鉱山であり、残りの25%は「南方鉱」および「四川鉱」と呼ばれ、江西省・福建省・広東省・四川省にわたる数多くの小規模鉱山である。  中国の北方鉱はもともと大規模鉄鉱石鉱山で、1990年代から、膨大な量になっている廃棄物(mine waste)の中に含まれるレアアースを回収することをはじめた。鉄鉱石の副産物であることと、環境対策を軽視した操業からコストが安く、安値攻勢で世界の市場をほぼ独占してしまったものである。  レアメタルを生産するためには、採掘した鉱石を硫酸で溶かし、分離・濃縮を繰り返して高純度のレアアース酸化物(REO)にした後、電解・還元してメタルにする。鉱石の精製プロセスで発生するずさんな廃硫酸処理による水質・土壌汚染と、廃棄物の中に含まれる放射性物質トリウム(Th)、ウラン(U)による、放射能汚染が問題となっている。  南方鉱は、北方鉱とは鉱石のタイプが異なる。北方鉱には含まれない、ディスプロジウムやテルビウムなど「重希土類」と呼ばれる耐熱高性能磁石をつくるのに重要なレアアースを含んでいる。その希少性から、ネオジムなど「軽希土類」の100倍の価格で取り引きされている。  他国のレアアース鉱山は、軽希土類の北方鉱タイプが多いのが中国の強みとなっている。しかし、その精製・分離にはやはり多量の硫酸を使用するため、廃酸処理が杜撰であるため深刻な鉱害問題を起こし、中国政府の環境規制が強化されてきている。そのためにも、最近とくに違法採掘と密輸出の取り締まりを厳しくしている。
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政治問題化する「鉱害輸出」
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