電気自動車(EV)の市場拡大が引き起こす、深刻な「鉱害輸出」

マレーシアでは、レアアース企業による「鉱害輸出」が政治問題に

evcharge 中国以外では最大のレアアース生産者であり、中国の寡占支配に対抗して始めたオーストラリアのライナス社は、オーストラリア南西部にあるマウント・ウエルド鉱山で採掘された鉱石を、マレーシアの東海岸クアンタンに建設した精製プラントに持ち込み、磁石用ネオジム・プラセオジムなどを生産していた。  しかし、45万トンもたまった廃棄物中のトリウム、ウランによる放射能汚染に抗議する地域住民の反対が厳しく、2019年9月に迫ったマレーシア政府によるオペレーション・ライセンスの更新に向けての条件交渉が難航しており、苦境に陥っている。  言ってみれば、オーストラリアによる鉱害輸出が非難されているわけだ。マレーシアのマハティール政権下ではこれが政治問題に発展し、精製プラントの操業が継続できるか不透明な状態にある。いまライナス社は、同社に出・融資を行ってレアアース製品の引き取りを行なっている日本を利用して、外交的にも友好関係にあるマレーシアにプレッシャーをかけさせようと試みている*。 <*参照:”Lynas is a crucial piece of Japan’s rare earths puzzle”|FINANCIAL REVIEW(Dec.17.2018)>  さらに、アメリカのカリフォルニア州にあるモーリコープ社のマウンテン・パス鉱山は、中国の安値攻勢で競争力を失い閉山していたのを、2011年の暴騰への危機感から再開した。しかし、環境規制が厳しい自国で精製すると競争力がないからといって、鉱石を中国とエストニアに運んで精製を委託している。これも鉱害輸出である。2015年破産した同社CEOは、2017年にトランプ大統領に同鉱山の国有化を陳情した。

中国のレアアース寡占に危機感を持った日・米・欧

電気自動車充電 レアアースといえば思い出されるのが、2010年9月尖閣諸島で中国漁船衝突事件が発生して、中国政府が日本向けレアアースの輸出を禁止してパニック状態になった件だ。日本は、それまで中国からのレアアース・メタル、レアアース酸化物の単純輸入をしていた。  しかし中国の厳しい輸出規制のため、2011年の価格暴騰に慌てて、ライナス社へ250憶円の出・融資をして融資買鉱。さらにカザフスタンのウラン鉱山の廃棄物をエストニアの精製プラントに輸送して、レアアースの分離回収を委託した。そのほか、ベトナム北部の資源開発や、カナダや南アフリカで探鉱を行ない、供給の多様化を図るなど資源確保に努力した。しかし、十分な成果が得られていないのが実態であろう。  その一方で、レアアースフリー代替材料の研究開発、レアアース使用量削減、そして高価で希少なディスプロジウムを比較的に安価な軽希土類のセリウム(Ce)、ランタン(La)に代替させるなどの技術開発の努力が産・官・学でなされ、それなりの成果をあげた。  結果的には2017年、日本のレアアース総需要量は2万6000トンで、2007年の3万6000トンに比べ30%減であった。しかしそれは、研磨材やガラス用が大幅に減少したためで、自動車あるいは再生可能エネルギー向けの磁石、電池そして触媒用は、使用削減効果もあったものの需要が上回って増加している。  中国の寡占支配体制は現在も続いてはいるものの、2011年の価格暴騰に対して、米国もレアアースの供給不足で高性能兵器(レーダー・ソナーシステム、高性能誘導兵器、巡航ミサイル、レーザーなど)が造れなくなるという危機感から「国家安全保障上の重大問題」として真剣に心配するようになった。  2012年、日・米・欧は、WTO(世界貿易機関)に提訴した。中国が敗訴して、輸出規制で溜まっていた在庫が市場に出回って2013年には価格が暴落。その後6年経ったいまも低迷が続いている。  なお、米中貿易戦争のさなか、米国は3000品目の中国製品に25%の輸入関税を課すことを発表した。その対象品目からはレアアースが除外されている。それは、マウンテン・パス鉱山の鉱石を中国に輸出して、精製委託した製品を輸入している米国としては、EVだけでなく重要な兵器製造に欠かせないレアアースのコストアップを避けたいという狙いがある。
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2019年、レアアースは急騰する!?
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