炎上する「無職の専業主婦の年金半減案」報道。問題の本質は女性間の対立ではない

 週刊ポスト5月3日・10日号に「働く女性の声を受け『無職の専業主婦』の年金半額案も検討される」という記事が掲載されました。政府が国民年金の第3号被保険者制度(※1)改革を検討していることを報じる内容でした。(※1:国民年金の第3号被保険者制度とは、厚生年金や共済組合に加入している配偶者(=国民年の第2号被保険者の場合)に扶養されている人が、保険料納付なしに基礎年金が受け取れる制度)  この記事がウェブ版に転載されると瞬く間に炎上。その後、毎日新聞が、確かに社会保障審議会年金部会において「年金半額案」への言及がなされたものの、必ずしも本格的に検討されていたわけではないことを報じ、週刊ポストの記事も批判されるに至っています。

「働く女性」vs「無職の専業主婦」?

 ネット上の反応を見たところ、批判の論点は大きく3つに分けられそうです(※2)。第一に第3号被保険者の年金給付額を減額しようとしていること、第二に専業主婦を「無職」と表現したこと、第三に「働く女性」と「専業主婦」の対立を煽ったことです。(※2:「#働く女性の声」というハッシュタグでいろいろな意見がツイートされている)  結論から示すと、私は第3号被保険者制度に批判的です。と同時に、専業主婦が直接的な金銭的報酬なしに家事や育児といったケア労働に従事していることを軽視することも誤りですし、この問題を「働く女性」と「専業主婦」の対立として捉えることも誤りだとも考えています。  残念ながら適切な代替案を提示するだけの能力を持ち合わせていませんが、配偶者が主に正規社員か職員で、自身が一定の年収以下という特定の人々のみを異なる方法で扱うことを正当化することはなかなかに困難です。  私がこの制度に批判的な理由は、第3号被保険者が自らの保険料を支払っていないからではなく、この制度がもっぱら男性の雇用を通じて世帯員の生活を保障するという発想の枠内にあるからです。

世帯単位から個人単位の制度へ

 1985年に導入された第3号被保険者制度は、一面では、雇用されて働く夫に扶養される妻の個人としての年金権を確立するものとして評価されてきました。  それまでは働いて金銭的報酬を得ていない、いわゆる専業主婦は夫の年金によって老後生活を送ることが前提とされており、国民年金制度においては任意加入扱いとなっていました。  個人名義の年金がないことは当然、彼女たちの経済的自立の障害になりますし、夫との関係性においてもなにがしかの意味を持つでしょう。第3号被保険者制度は、多くの場合は夫である世帯主を通じて妻の老後生活を支えるという世帯単位の制度から、妻に年金を直接給付する個人単位の制度への変更という性格を持っています(※3:第3号被保険者制度の評価については横山文野『戦後日本の女性政策』(2002年、勁草書房)や武川正吾『政策志向の社会学-福祉国家と市民社会』2012年、有斐閣 が解説している)  なお、第3号被保険者分の保険料は、保険料率を上昇させつつ、既婚かどうかや性別を問わず第2号被保険者が一律で負担することになりました。  「独身女性」や「共働き夫婦の妻」だけでなく、「独身男性」、「共働き夫婦の夫」、「専業主婦の夫」を含む全ての厚生年金・共済年金加入者(国民年金の第2号被保険者)が所得に比例して負担しているのです。この意味でも、この問題を「女性間の対立」と捉えるのはミスリーディングです。
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「男性稼ぎ主型」な日本社会の生活保障
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