正社員、自営業者……働き方で加入する保険が異なることの問題
大沢さんは、このような状況を指して
「日本社会政策は就業や育児を罰している」と喝破しました。
社会保険に限ると、この逆機能の大きな理由の1つとして、
就労・雇用形態、企業規模、業種、労働時間などによって加入する組織が異なっていることがあげられます。
こうした社会保険制度では、
大企業の正社員であるなど比較的恵まれた立場にある人ほど、低い負担率で厚い保障が得られるようになっています。例えば、正規雇用労働者が中心の厚生年金は、所得に比例する形で保険料と給付額が決まります。
それに対して、
自営業者の世帯や学生などの第1号被保険者は、保険料、給付額とも定額です。そのため収入の少ない非正規雇用労働者にとっては、保険料が収入に占める割合が高くなってしまい、また給付額も低いレベルに止まります。日本において、社会保険を含む社会保障制度は、所得の低い人ほど収入に対する負担の割合が大きくなる逆進性の高さで知られています。このことが
、税・社会保障精度が逆機能を果たしてしまっている理由の1つです。
阿部さんによれば、2015年時点で、20歳~64歳の女性の貧困率を世帯構造別に見ると、「夫婦と未婚の子ども」からなる世帯に属する場合は10.0%であるのに対し、「ひとり親と未婚の子ども」からなる世帯のいわゆる
シングルマザーの場合、31.5%に上ります。
さらに、同年齢の女性の貧困率を就労状態別に見ると、いわゆる専業主婦(≒第3号被保険者)と推測される「家事」の場合は13.4%です。(※9:阿部彩「日本の相対的貧困率の動態-2012から2015年」科学研究費助成事業-科学研究費補助金/基盤研究B、『「貧困学」のフロンティアを構築する研究』報告書2014年)
もちろん、それぞれのカテゴリーにも様々な経済状況の世帯がありますが、全体としては、
シングルマザー世帯は、第3号被保険者が属する世帯よりも経済的に厳しい状況にあります。
そして、厚生年金に加入できない(それはしばしば貧困状態にあることを意味しますが)シングルマザーは、老後に年金給付を受けるためには毎月国民年金の保険料を支払わなければならないのです。
これはあくまで
男性稼ぎ主型の生活保障システムが抱える問題であって、
専業主婦が「ずるい」わけでは決してありません。