もちろん、声を出したところで、「何も変わらない」とさらに呪いをかけるひともいるかもしれない。そしてときにそれは残酷なまでにその通りなのかもしれない。
しかし、上西氏は「それでも得られるものがある」という。
「声をあげることは怖い。でも怖いと思うからこそ、声の上げ方を考えて、その上で声をあげればいいと思うんです。
自分が不当な圧力を受けているとしたら、それを押し込めないで、そういう状況にあることを見せたほうがむしろ安全なこともある。例えば、私が『Yahoo!ニュース個人』に投稿した記事について橋本岳議員がFacebookで『噴飯もの』と嘲笑したり、威圧的な恫喝を行ったことに抗議して記者会見を開いたことがありました。あの会見をやるときも会見をやって叩かれるかと思ったらそうならなかった。
もしあれを放っておいたら、橋本岳議員の投稿が『指令』となって、いろいろな人から叩かれたかもしれない。でも早い段階で、『黙れ』と主張したことが逆に良かったんじゃないかと思っています」
「声を上げるのは自分の目先の損得で考えると損なんですよ。でもその反面でとても大切な意味がある。それは、自分を抑えて言いたいことも言わないでいると決して見えてこない。
言いたいことが言えること。そのことが自分にとっていかに価値があることなのかが、見えてないだけだと思うんです。
『自分は悪くなかったんだ、向こうが悪いんだ』というふうにその場の中で、『私は悪くない』と言えること。あるいは、なにか不満に思ったことに対して、交渉を提案して、『自分が交渉できる主体なんだ』と思えるようになること。生きていく中で、すごく大切なことだと思うんです」
上西氏は、『
呪いの言葉の解きかた』で、「呪いの言葉」の正体を解説し、それらを投げかけられたときの効果的な返答をリストアップした。それと同時に、人々に力を与える、エンパワーメントの効果を持つ言葉を「灯火の言葉」、さらに自分の中から湧き上がって自分を支えるような言葉を「湧き水の言葉」として紹介している。
「言葉は呪いにもなるし、分断を生み出すこともある。でも相手を認め、その人の『今』を評価する言葉を、届けることによって人を動かすこともできる。そんな言葉が『灯火の言葉』だと思っています」
国会PVや参考人招致で多忙な中、上西氏の活動が1年の時を経て一冊の本となった『呪いの言葉の解きかた』。周りで飛び交う「呪いの言葉」に抗うための第一歩を示唆してくれるこの本は、多くの人々にとって「灯火」となるに違いない。
<文/上西充子 Twitter ID:
@mu0283>
うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『就職活動から一人前の組織人まで』(同友館)、『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「
国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。『
緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆。新刊『
呪いの言葉の解きかた』(晶文社)は必見の書