そもそも、なぜミャンマー政府は「ロヒンギャ」という言葉を使わないのでしょうか。ひとつの大きな原因は、1982年にできた
国籍法です。同法律が施行される前は、ロヒンギャの人々はミャンマーの国民とみなされていました。(参照:
Human Rights Watch)
しかし、1982年に、ミャンマー政府は135の民族を公認し完全な国籍付与の対象としたものの、ロヒンギャ民族はその対象から除外しました。結果、推計80万人から130万人いるとされるロヒンギャ民族にビルマ国籍が認められていません。
事実上、
無国籍の状態にあるロヒンギャ民族は、ミャンマー政府により「不法移民」とみなされ、数十年に渡りミャンマー軍による迫害の標的になり続けています。
‘90年代にはミャンマー軍による村への放火や殺害などが行われました。現在、73万人以上のロヒンギャ難民が隣国のバングラデッシュで難民キャンプでの避難生活を強いられているうえ、ミャンマーのラカイン州には12万人以上のロヒンギャが収容所のような環境で暮らしています。教育・医療・移動の自由はありません。
ロヒンギャ民族に対して差別を展開するミャンマー政府と、中立性を下に同政府の見解に同調する日本政府。この構図は、客観的に見て中立性と言えるのでしょうか? それとも、ミャンマー政府のご機嫌取りを優先しているだけなのでしょうか?
少なくとも、国際的な場では、日本政府は同問題について
消極的な姿勢を一貫してきました。
例えば、‘17年12月に国連総会で行われた決議は、ミャンマーの人権状況に関して懸念を表明したもので、130か国以上の賛成多数で採択されましたが、日本政府はこれを棄権しました。
また、国連人権理事会では昨年9月、新たなミャンマー人権決議が35か国の賛成多数で採択され、新たな国際的メカニズムが設立されました。’11年以降にミャンマーで起きた「もっとも深刻な国際犯罪の証拠の収集、整理、保存、分析」を行い、「公正で独立した刑事手続の開始を助け促進するための事件記録を準備する」権限が与えられたのです。しかし、日本政府はこれも棄権しました。
日本政府は、真に「ミャンマーにおける民主的な国造りのさらなる進展を期待」しているのであれば、言葉を濁さず、「ロヒンギャ」という言葉を使用し、ミャンマー軍による愚行の責任所在の追求に積極的に取り組むべきではないでしょうか。
<文/笠井哲平>
かさいてっぺい●’91年生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校への留学を経て、’13年Googleに入社。’14年ロイター通信東京支局にて記者に転身し、「子どもの貧困」や「性暴力問題」をはじめとする社会問題を幅広く取材。’18年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーとして、日本の人権問題の調査や政府への政策提言をおこなっている
かさいてっぺい●’91年生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校への留学を経て、’13年Googleに入社。’14年ロイター通信東京支局にて記者に転身し、「子どもの貧困」や「性暴力問題」をはじめとする社会問題を幅広く取材。’18年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーとして、日本の人権問題の調査や政府への政策提言をおこなっている